106.光(不二リョ)
「リョーマ、起きて。朝だよ」
「……ん」
 体を揺すられて、俺は重い瞼をなんとかこじ開けた。声のするほうへと眼をやる。
「しゅうすけ?」
「おはよ」
 青白い朝陽に包まれた先輩は、それ以上の眩しさで微笑った。
「…はよっス」
 思わず、顔が赤くなる。それに気づいたのか、先輩はクスリと微笑った。俺の額にかかる髪を掻き揚げ、そこに唇を落とす。体を離すと、先輩は開け放たれた窓から宙(ソラ)を見上げた。
「夜明け、見せてあげようと思ったらさ、君があんまり気持ちよさそうに寝てたから。起こすのも可哀相だな、なんて思っちゃって。そんなことをしてたら、ほら」
 宙、真っ青。
 窓の外を指差しながら、先輩は俺を見て微笑った。起き上がり、先輩の隣に並ぶ。宙を指している手を取ると、自分の指を絡めた。
「いつから起きてたんスか?」
「んー。まあ、まだ夜だったときからかな」
 星が綺麗でさ。
 呟いて、俺の額にキスをする。
 夜だった時って。今の時刻は午前7時。今は夏だし、陽の出は1時間以上前のはずだ。それから俺を起こすまでの間、ずっと宙を見てたって言うのだろうか?
 俺を部屋に連れて来たときも、何度も窓辺に立っては夜空を見上げてたのに。
「アンタ、いっつも宙をみてるけど。飽きないんスか?」
 呆れたような俺の質問に、先輩は少し意外そうな顔をした。その後でクスリと微笑い、俺の頭を優しく撫でた。
「飽きないよ。あの自由な宙を見てると、僕も自由な気になれるんだ。昼でも夜でも、晴れでも雨でも、僕が宙を明るいと感じるのは、きっとそれ自体が僕の光だからなんだろうね」
「……光?」
「そう。憬れに近い感情かな。でも、憬れとはちょっと違うんだ。なんて言ったらいいのか、上手く言えないけど」
「希望の光とかそんな感じ?」
「希望とはちょと違うかな。兎に角、僕にとっての光なんだ」
 ごめんね、上手く説明できなくて。
 苦笑しながら俺の頭を撫でると、先輩はまた宙を見上げた。眩しそうに、でも、愛しそうに。
 先輩の言う『光』の意味はよく理解らないけど。でも、俺にとってのそれが何なのかは理解った。
 憬れに近く、何よりも愛しくて。よく知ろうと見れば見るほど、眩しさで見えなくなる。届かないことは理解ってても、手を伸ばさずにいられなくて。そこに存在するだけで、幸せになれる。
「……周助」
 名前を呼ぶ。先輩のシャツを掴み引き寄せると、俺は背伸びで、触れるだけのキスをした。
 先輩を強く抱き締め、その胸に顔を埋める。
「リョーマ?」
 この人が、きっと。俺にとっての光。
「好き」
 抱き締めたままで、呟く。くすぐったいよ。微笑いながらも、先輩は俺を強く抱き返した。
 優しい体温の中、周助の光が俺になればいいな、なんて考えてたら、いつの間にか俺は再び眠りについてしまった。
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