107.闇(不二リョ) |
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『106.光』の続き
「リョーマ?」 「…………」 「なんだ。眠っちゃったのか」 僕の胸に体を預けるようにして再び眠りに付いてしまった彼に苦笑すると、ずるずると倒れそうになるその体を抱きかかえた。 起こさないよう、ベッドに横たえてやる。 「…陽の光、邪魔かな」 安心しきった寝顔。それを覚醒へと導く陽を遠ざけるため、僕はブラインドを閉めた。途端、部屋が暗くなる。 椅子を持ってきて彼の顔が見れる位置に座ると、その手をギュッと握り締めた。 それにしても、珍しい。目覚めが悪いとはいえ、あんな状態で二度寝に入るなんて。そんな、疲れるようなことはしてない筈なのに。 昨夜の出来事を思い出す。そのことで、胸の奥に燻ってしまった感情に、苦笑した。繋いでいた手に、指を絡める。 僕にとっての光。それは宙(ソラ)だと彼に言ったけど。もう一つ、僕にとっての光は存在(ア)る。あの宙と同じくらいに自由で眩しい存在。 「好きだよ」 呟いて、彼の手の甲に唇を落とした。それに反応してか、キュッと彼が手を握り返してくる。その仕草に、思わず笑みが零れた。 光にはずっと手が届かないと思ってた。けれど、今、僕はこうして光を手にしている。それは嬉しい事だしこれからもずっと大切にしていきたいと思う。 だけど。 光が存在するからこそ、闇は存在する。どんなに強い光を手にしたとしても、それで闇を消すことは出来ない。寧ろ、それが明るければ明るいほど、影は濃く深くなる。 「……リョーマ」 指を解き、彼の上に跨るようにしてベッドに乗る。触れるだけのキスをすると、彼は小さく声を漏らした。 先ほどとは違う種の、笑みが零れる。 彼という光が照らし出す、僕の中にある闇。ときどき、総てを壊したくなる衝動。ひとつになれれば、こんな感情を抱くことはないのだろうけど。体という境界があるから。 彼の首筋に舌を這わせる。 ――無茶苦茶にしてやりたい。 浮き立っている血管に、浅く、噛み付く。 「……っうすけ?」 舌足らずな彼の声に、我に返る。僕は顔を離すと、微笑った。触れるだけのキスを交わす。 「何しようとしてたんスか」 「余りにもリョーマが可愛い顔で寝てるからさ。襲ってみたくなって」 駄目かな?囁いて微笑って見せると、彼は顔を真っ赤にして僕から眼をそむけた。 そんな彼を、愛しいと思う。素直に。 「……きにすれば」 「ん?」 「好きにすれば。どうせ俺は、アンタには逆らえないんだし」 真っ赤な顔のまま、それでも懸命に不敵な笑みを作って彼は言った。その心が僕を照らし、闇を奥へと押し込めていく。 「じゃあ、遠慮なく」 クスリと微笑うと、僕はなんとも言えない優しい気持ちで彼に触れた。 |
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