109.クチビルノスルコトハ(不二リョ)
「アメリカ育ちのくせに、リョーマは思った事、余りはっきりとは言ってくれないよね」
 俺を後ろから抱き締め、揺り篭のように体を揺らしながら先輩は呟いた。俺の耳元で、クスクスと微笑う。
「何の話っスか」
 感じる吐息に顔が赤くなる。それを隠すようにわざと呆れたような口調をとったけど。
「耳、紅いね」
 あっさりと見抜かれてしまう。ま、別にいいけど。
「だからさ。好きってあんまり言ってくれないなって」
「…何で言わなきゃいけないんスか」
「だって。僕のこと好きって思ってるんでしょう?」
「………バカじゃないっスか」
 何で、思ってるからっていちいち言わなきゃなんないの?っていうか。
「俺、別にアンタのこと好きだとか思ってないし」
「嘘吐き」
 クスクスと微笑うと、先輩は俺から手を離した。向かい合うように俺の向きを変え、再び膝に座らせる。目を合わせると、先輩は意地悪な笑みを俺に向けた。
「じゃあ」
「……っ」
 抵抗する間もなく、シャツをたくし上げられる。
「この胸のドキドキは何なんだろうね」
 俺の胸にピッタリと手を合わせると、先輩はクスリと微笑った。直に伝わってくる温もりに、鼓動が速くなっていくのが理解った。顔も、さっきよりも熱い。
「好き、だよ」
 手を離しシャツを戻すと、先輩は微笑った。俺からの言葉を促すような目。だけど、俺は何も言わずに先輩を見つめ返した。
 溜息が聴こえてくる。
「全く。その唇は何をする為についてるの?」
 呟くと、先輩は俺の唇にそっと触れた。その手を取り、指を絡める。
「リョーマ?」
「……俺の唇は」
 周助にキスするため。
 言う代わりに、俺は目を瞑ると先輩に触れるだけのキスをした。
「だから、言葉なんか使わなくてもいいんスよ」
 額を合わせ呟く。
「参ったな」
 困ったような口調で呟いた先輩は、それとは反対に凄く嬉しそうな顔で微笑っていた。
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