113.毒(不二乾)
「ほら、新作」
 不二の訪問に合わせて作成した俺特性の青汁を渡す。色こそは緑なものの、青酢を越える出来になっているのは間違いない。
「うん。ありがと」
 見た目が見た目なだけに安心しているのだろうか?不二はあっさりと俺の手からコップになみなみ注がれた青汁を受け取った。口元まで持って行く。
 ここで、不二が倒れなければ失敗。倒れれば成功となる。まぁ、倒れたあとでの不二からの仕返しが怖くないといえば嘘になるが、これも青学テニス部のためだといえば、なんとかなるだろう。いや、ならないか。前回の青酢の時は…24時間耐久で色々なことをさせられた覚えが…。
 でもまぁ、今回は不二が進んで飲んだことになるのだから、そこまでの仕打ちはされないだろう。
「ん?」
 いろいろ考えていると、コップに口をつけたままの不二の視線に気がついた。俺と眼を合わせると、不二はニッと不気味なくらい無邪気な笑みを見せた。
「いつも思うんだけどさ、乾って、これ、自分で毒見してる?」
「……毒見とは、酷いな」
「そう?皆の反応を見る限りじゃ、毒見って言葉が一番しっくりくると思うけどな。それで?してるの?してないの?」
「いいや。していないな」
 するわけがない。俺には俺専用の(人畜無害な)特性青汁があるしな。ああ、そう考えると、確かに毒見という言葉は的を得ているかもしれないな。
「じゃあ、偶には乾も毒見してみなよ。ね?」
 満面の笑みを俺に向けると、不二は青汁の入ったコップを俺にしっかりと持たせた。早く飲めとでも言うように、笑顔のままでじっと見つめてくる。
「……飲まないと、駄目か?」
「だって、自分で作ったんでしょう?それとも、自分が飲めないようなものを他人に飲ませようとしてたの?」
 ……今更気づいたのか?などと思ったものの、そんなことを口に出したら恐らく俺の命はない。だからといって、この青汁を飲む勇気もない。
 どうする?
「仕方ないな。じゃあ、これならどう?」
 言うと、不二は俺の手からコップを取った。自分の口に青汁を流し込む。
「……んっ」
 俺の胸座を掴む手。何をされるのか考える間もなく、俺は唇を重ねられた。どろりとした青汁が、不二を介して流し込まれる。
「っ不二!何を…」
「はい。毒見終了。ね、どうだった?」
「………。」
 楽しそうにクスクスと微笑いながら言う不二に、俺は赤い顔のままで止まった。さっきの青汁の味をなんとか思い出そうとしてみる。が、それよりもその行為自体の甘さが邪魔をして、正確な味を思い出せない。
 だが、青汁を飲んだ俺は倒れていない。という事は、これは失敗作か?
「理解らなかった?じゃあ、もう一口行く?」
 そう言って不二がコップに口をつけようとする。
「待て」
 慌てた俺は、不二からコップを奪った。ほんの少ししか減っていない青汁をじっと見つめる。
「自分で飲む」
 さっきは倒れなかったのだから、もう一度飲んでも大丈夫だ。きっとこれは失敗作。大丈夫だ。深呼吸をし、コップをしっかりと握る。
「よし」
 呟くと、俺は一気にコップの中身を飲み干し――。


「あーあ。倒れちゃった。気づかなかったのかな、僕が乾汁に全然口をつけてないって事に。コップの中身、全然減ってなかったはずなんだけど。……まぁいっか。さて、乾。こんなものを僕に飲ませようとした君には、しっかりと罰を与えないとね。ふふ…」
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