114.店(不二リョ)
「…なかなか売れないっスね」
「そう?売れてると思うけど」
「ものじゃなくって、金が貯まんないってことっスよ。こんなんじゃ、ただ暑いだけじゃないっスか」
 わざとらしく、手で風を作ってみせる。けど、先輩は気にしない様子で、空を仰いだ。
「まぁ、偶には日光浴も良いじゃない」
「日光浴ならいつでもしてますよ。部活で」
「でも、それ以外はゲームばっかりしてるじゃない。特に今日みたいに部活が休みの日は」
「……そりゃぁ、まぁ」  ごもごもと口篭もりながら言う俺を見て、先輩は楽しげに微笑った。ったく。頬を膨らし、頬杖をつく。
 そもそも、何で俺、こんなとこにいるんだっけ?
 朝早くから、先輩に直接訪問で起こされた。携帯だと無視される可能性があるから、と微笑いながら。普通なら、俺が寝てるんだから通さないところだけど、先輩が来たときに相手したのが親父だから仕方ない。うちの馬鹿親父は何故か不二先輩には甘いから。
「……これ、ください」
「はい、どーぞ」
 幼い子の申し出に、先輩は殆んどただ同然で商品を渡した。そんなことしてっから、さっきから物は売れてるのに金は貯まらないんだよ。  フリーマーケットは値切るのが基本らしいけど。値切られてもいないのに安くするのは、なんか違うと思う。
「ったく。そんなんだから…」
「良いんだよ。別に、お金を儲けるのが目的じゃなくて、僕の思い出を大切にしてくれるヒトを探すのが目的なんだから」
「……なんかそれ、寒いっスよ」
「そう?まぁ、そういう僕を好きになっちゃったんだから、仕方ないよね」
 言って、俺の手を握ると、先輩はクスリと微笑った。その笑顔に、悔しいけど顔が赤くなる。
「ああ、そうだ。そんなにお金を集めたいならさ」
 言いかけて俺から手を離すと、先輩はダンボールにマジックで何やら書きだした。紐を通し、俺の首にそれを掛ける。
「それ持って、ここに立ってなよ」
「………?」
 俺の手を引き、商品の隣に立たせる。途端、道行く人が興味深そうに俺を見てはクスクスと笑い出した。
 嫌な予感。
 恐る恐る、そのダンボールに書かれた文字を読んでみる。
「『少年レンタル、一時間千円』…?って、オイ」
「ん?」
「ん?じゃないっすよ!何なんスか、これ」
「何ってそのまんまだよ。そんなにお金を稼ぎたいなら、自分の体で稼ぎなよ」
 ふふ、と微笑いながら言う。恐ろしいことを言うだけでなくやってのけるもんだ。でも、ちゃんと意味わかってんの?
「俺が誰かにやられるってことっすよ?」
 しかも、安いし。
「まぁ、経験積んでくるのもいいんじゃない?」
「……アンタからも、金取りますよ」
「別に良いよ。その代わり、ナニをしても抵抗しちゃ駄目だよ」
「………ちぇ。まぁいいや、どーせ誰も買わないだろうし」
「それはどうかな?」
「すみませーん」
「はいはーい」
「この少年、レンタルしたいんですけど…」
「ゲッ」
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