115.楽園(不二切)
「俺、今もの凄く幸せっスよ」
「そう?」
「そうっ。まるで楽園みたいっス」
 ずっとここにいたいっスね。僕のベッドにうつ伏せになるとエアコンの温度を下げた。風量も変えたのだろう。冷たい風が、ゴオッと音を立てて吹き込んできた。寒さに、思わず身を震わす。
「……寒くない?」
「これぐらいがちょうどいいっスよ」
「って、あのねぇ」
 タオルケットに包まりながらいう彼に、僕は溜息をついた。ペンを置き、寝そべってる彼の上に勢いをつけて圧し掛かる。
「ぐぇ。…不二サン、重いっス」
「失礼だな。これでも君の上に乗る身として、プロポーションには気をつけてるんだよ」
 彼の耳元に唇を寄せ、ふっと息を吹きかける。一瞬だけ彼の身体が硬直するから。僕は手を伸ばすと、リモコンを取り返した。
「……15℃って。設定できる最低温度じゃない」
「えへへ」
「『えへへ』じゃないよ。まったく。ここは僕の家なんだからね。こういう贅沢は自分の家でしなさい」
「へーい」
 大して反省した様子も無く彼は呟くと、わざとらしい溜息をつき、力尽きたようにベッドに顔をつけた。それに構わず、温度を27℃まで上げる。
「暑いー」
「暑くないよ」
「暑いっスよ。ここは地獄だー」
「……さっきまで、楽園だーって言ってたくせにね。君にとっての楽園は、僕がいるところじゃなくて涼しい所なの?」
「違いますよ。不二サンがいて涼しい所っスよ。あーっ、暑いー」
 僕を乗せたまま、バタバタと手足を動かす。居心地が悪いから、仕方なく僕はベッドから降りた。やりかけの宿題に再び手をつける。
「オレの楽園、返してくださいよ」
「うん?」
「だからぁ」
 言いかけると、今度は彼が僕に圧し掛かってきた。後ろから抱き締めるようにして体重を掛けてくる。
「オレのらくえんーっ」
 手を伸ばして、テーブルの向こうにあるリモコンを取ろうとする。
「だーめ」
 彼がそれに触れるよりも先にリモコンを取ると、僕は彼の手からそれを避けた。悔しいのか、小さく舌打ちをした彼が、さっきよりも体重を掛けてくる。でも、僕は体が柔らかいから。
「何?柔軟体操?」
 言いながら、テーブルを少しずらすと、足に額をくっつけて見せた。
「ちぇっ」
 今度は大袈裟に、彼が舌打ちをする。
「仕方ないな」
 呟いて微笑うと、彼の手を掴んだまま、立ち上がった。仰向けに、ベッドに倒れる。
「ぐぇ」
 下敷きになった彼が、また妙な声を出す。手を離し、彼と向き合うようにして圧し掛かる。
「温度、下げよっか」
「…いいんスか?」
「いいよ。まぁ、だからといって涼しくなれるかどうかは判らないけどね」
「……え?」
「だから、ここからは僕にとっての楽園タイムってことだよ」
 クスリと微笑い、温度を下げ用済みになったリモコンを投げ捨てると、彼にキスをした。
「ゲッ」
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