116.DNA(周裕&由)
「……オレって捨て子だったのかな」
 紅茶のカップから口を離し、ポツリと呟く。
「何で?」
 テレビのボリュームを下げ、裕太を覗き込む。裕太はわざとらしい溜息をつくと、カップを置いた。
「だってオレ、家族ん中で唯一まともじゃん」
「……は?」
 疑問の声を上げる僕に、裕太は仕方ないなとでもいうように指を広げた。
「親父は腹黒いし、母さんは電波だし、姉貴は呪術使いだし」
 一本ずつ、指を折りながら数えていく。
 それにしても、怖いもの知らずだな。姉さんが扉の向こうで聞いてるって言うのに。まぁ、いいけど。
「僕は?」
「兄貴が一番最悪かもな。腹黒いし電波だし姉貴から教えてもらってっから呪術使えるし。それに」
「……それに?」
「ホモだし」
 ピンと立てた人差し指で僕の鼻を指差すと、裕太は真顔でいった。その顔と仕草が可愛くて。
「ぷっ。あっははははは」
 思わず、大声を上げて微笑ってしまった。途端、裕太の顔が赤くなる。
「微笑うなよ。何なんだよ」
「うーん。裕太はやっぱり可愛いなぁ。おにーちゃん、思わず抱き締めたくなっちゃうよ」
「だーっ。だから、そういうのを止めろつってんだよ」
 両手を広げ、ギュッと抱き締める。腕の中で裕太が必死にもがいてるけど、それは気にしない。
「でもね、裕太。僕は裕太が男だから好きなんじゃないんだよ。裕太が裕太だから好きなの。だから全然変じゃない」
「変だよっ。兄貴の言ってること全然わかんねぇよ」
 余りにも必死にもがくものだから。僕は裕太の額にキスをすることで、体を離してあげた。僕の腕から抜けた裕太は、真っ赤な顔で額を何度も拭う。
「要するに、周助は裕太全部を好きになったってことよ。性別とかに関係なく、人としてね」
「姉貴!?」
 ソファの後ろから、僕たちの間を割るようにして顔を出すと、姉さんは言った。僕は気づいてたから驚かなかったけど、裕太は知らないから。姉さんを見る体制のまま、硬直してしまった。それを見た姉さんは、僕と同じ笑みを作ると、ピンと立てた人差し指で裕太の額を小突いた。僕のほうを、振り向く。
「周助。裕太ちょっと借りてもいい?」
「んー。でも、ほどほどにしといてよ。裕太は僕のなんだから」
「わかってるわ」
 ふふ、と意味深に微笑うと、姉さんは硬直した裕太の首を猫掴みした。ずるずると、裕太を引き摺る。
「……やっぱオレ、捨て子だったんだろうな」
 これから身に降りかかるであろう危機に顔を青ざめながら、裕太は溜息混じりに呟いた。
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