118.世界の終わり(不二切)
 ああ、まただ…。
 一瞬の暗闇。そのあと、オレの視界は緋色に染まる。
 こんなプレイがしたいわけじゃない。そう思いながらも、頭に浮かぶ考えはいかに相手を嬲るかということだけで。
 視界が多色に戻ったときには、世界の終わりが来たような荒涼な景色だけが広がっているんだ。

 そう。オレの赤目が引いた時には…。

 なのに。
「な、んで…」
 視界に緋以外の色が戻ってくる。それでも、オレの体は動き続けていた。
 打っても打っても、戻ってくる球。コートの向こうには、まだ生き生きとした景色が存在してる。
「くっ…」
 軽い混乱の中、それでも体だけが球に反応して動く。
 ワケがわからねぇ。一体、どうなってるんだ?
 コートの向こう、見えていない眼でそれでもオレを捉えているのは、柳さんでも、真田副部長でも、ましてや幸村部長でもない。相手は、ただの人間。今日まで、全く意識していなかった男、不二周助だ。
 部長達には赤目になる暇も無くやられたけど。それとはワケが違う。オレは一度赤目になったんだぜ?こんなこと、初めてだ。
 青学、不二周助。
 こいつが、オレを救ってくれたとでも言うのか?
 違う。オレはまだ、何も変わっちゃいない。
 救われてなんかいない。それがわかるのは、試合が終わったときだけだ。本当にこいつがオレを救ってくれるなら。救ってくれるのなら…。

「ウォンバイ青学、不二」
 コールが、いやに頭に響く。だがそれは、いつも感じる絶望感なんかじゃなかった。
 深呼吸をし、顔を上げる。ベンチの方を見つめていたその人は、オレと眼が合うと優しく微笑った。
「……あ」
 その笑顔に、急激に体の疲れが癒えていくのを感じた。
 この人は違う。今までの奴等とは。
 今まで対戦してきた奴等は、全員憎悪やら何やらの感情を込めてオレを睨みつけていたのに。この人は傷をつけたオレを見て、優しげな笑みを見せている。
 救われたのか?オレは。世界の終わりを引き起こす、あの緋い呪縛から解き放たれた?
「……ありがとう」
 優しい声と共に差し伸べられる手。その手をとろうとして、オレは足をもつれさせてしまった。
「切原くんっ!?」
 オレを温かく力強い腕が受け止める。
 その優しさに、オレはたった今救われたんだと、遠退いていく意識の隅で確信した。
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