120.月(不二大)
「君の得意技のムーンボレー。あれって、厄介な技だよね」
 戸締りの確認をしているおれの背中に、不二は言った。
「だが、不二にはとっくに破られてる。そんなに厄介だっていうわけじゃない」
 はい、と不二に渡され、テニスバッグを肩にかける。
 それがあまりにも自然な動作だったから、不二に手を引かれるまで気がつかなかった。恥ずかしさに、自然と繋いでいた手にじんわりと汗をかいてしまう。
「大丈夫。もうみんな帰っちゃってるから」
 頬が赤くなってしまっていたのだろうか。不二はおれの顔を覗き込むと、ふふ、と微笑った。
 部室を出、鍵を閉める。
「やっぱり、ムーンボレーは厄介だよ」
 おれが鍵をしまうために離してしまった手。両手が自由になった不二は、おれの両手が塞がっているのをいいことに、シャツを掴むと一気に捲り上げた。
「っにするんだ、不二」
 慌てて不二と距離をおき、シャツを直す。今度は確実に頬が赤くなってしまったのが理解った。不二が楽しそうに微笑う。
「それだよ、それ。大石のそれが厄介だって言ってるんだよ」
 もう捲くらないから。言うと不二はまたおれに手を差し出してきた。警戒しながらもその手を取ると、本当に何もせずにただ指を絡めてきた。
 気を取り直して、帰路を歩む。
「……何が厄介なんだ?」
「ん?」
「『それ』って」
「ああ」
 呟いて含んだような笑みをおれに向けると、不二は手を強く握った。
「ムーンボレーを打つときってさ、こうやって手が上がるから…」
 言いながら、手を高く上げる。それはおれの手とも繋がっているから、自然とおれの手も高く掲げられた。
「ほら、ね。厄介でしょう?」
 クスリと微笑う不二の視線を辿る。そこには、露出してしまったおれの腹が…。
「って。不二っ!」
 強引でもなんでも、急いで上げていた手を下ろす。
「あはは。でも一番厄介なのは、照れた大石だよね」
 睨み付けているおれに、不二は楽しそうに微笑うと、赤くなったおれの頬にキスをした。
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