124.バスタイム(不二リョ)
「……狭いんスけど」
「そう?僕はこれくらいの広さがちょうどいいと思うけどな」
 俺を後ろから抱きかかえるようにして湯に使っている先輩は、クスリと微笑うと、手を伸ばして俺の膝の上に乗っていたアヒルを突付いた。窮屈そうに、アヒルが水面を泳ぐ。
 それにしても。こんな暑い夏に、なんで狭い風呂に二人で入らなきゃなんないんだか。しかも、熱湯。
「しょうがないじゃない。プールだと、リョーマの肌を他人に見せなきゃならなくなっちゃうし。君のその肌に触れていいのは勿論だけど、見ていいのも僕だけだからね」
 あ。このアヒルとカルピンは別だけど。
 楽しそうに言うと、先輩は脱衣所で大人しく座って待っているカルピンを見た。ほぁら、と間の抜けた鳴き声をあげる。
「さて。体、洗ってあげるよ」
 俺を抱きかかえ湯船から出ると、先輩はカルピンを廊下へと追いやった。ピッタリとドアを締め、俺の元へと戻ってくる。
「……何で追い出したんスか?」
「だって、リョーマの美声は僕だけのものだし」
「はぁ!?」
「ふふ」
 意味深に微笑うと、先輩は俺を自分の前に座らせた。ボディーソープを手に出し、泡立てる。
「………っ!?」
「お風呂の温度、暑くしておいて正解だったね。ほら、綺麗な桃色だよ」
「やめっ…」
 クスクスと微笑いながら、先輩は俺の体にできた境界線を指でなぞった。俺の体を一周したあとで、熱湯に使ってピンクになってしまっている肌に触れてくる。
「ね。人に体を洗ってもらうのって、気持ちいいでしょう?」
「あ…んたが、変なとこ触ってくっから…っしょ」
 色んな所に容赦なく触ってきて。抵抗したくても、少々のぼせ気味だった俺には、なんかその力も出なくて。でも、何もする気はしないはずなのに、何故か甘い声だけは漏れてしまっていた。
「そう。その声だよ。リョーマのその声は、僕だけのものなんだから。ねぇ、もっと聴かせてよ」
「やぁっ……はっ…」
 先輩の手が俺の中心に触れ、思わず高い声を上げてしまった。慌てて口を押さえたけど、手についた泡が苦くて、上手く声を押さえられない。
「いいね、お風呂って。色んな音がよく響く…」
「そんっ…と言わないで」
 先輩の言葉のせいで、大して気にしてなかった自分の声とボディーソープのせいだけじゃない湿った音がさっきよりも大きな音となって聴こえてきた。耳を塞ごうとするけど、体がもうほとんど自分の意思では動いてくれない。時々、痙攣のように身を震わすだけだ。
「はぁっ…あ……んっ」
 やばっ。もうイきそ…。でも、それだけは堪えないと。こんなところで出したら、普段は聴こえるはずもない音まで聴こえてきそうで。それに、先輩の思惑通りって言うのも、なんかヤだし。でもっ…。
「いいよ、出しても。そうしたら、後ろも綺麗にしてあげるから」
「やぁっ」
 耳元で愉しげな笑い声を上げると、先輩はそれを促すように手を動かしてきた。
「もっ…」
 このまま先輩に身を委ねてしまいたくなる。けど、視界の端に映った物体に、俺は飛びそうになる理性をなんとか留めさせられた。不自由な手を伸ばし、その物体を指差す。
「しゅっ…け。あれっ」
「ん?」
 手の動きをやめた先輩とそれよによって辛うじて自由を取り戻した俺が見たのは、黄色い物体。誰もいなくなった湯船を自由に泳ぎまわっているアヒル。
「……あれが、どうかしたの?」
「いいんスか?俺の声、聴かれてますよ」
「………」
 よし。これで、この場はなんとかやり過ごせ――。
「っあ…。なん、で?」
「まぁ、たまにはアヒルちゃんにもサービスしてあげてもいいよね。倖せのお裾分けってことで」
「やっだって……あっ、ああぁぁぁっ…ん」
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