126.鳥(不二跡)
「鳥になりたいって、思ったことない?」
「鳥だぁ?」
 突然の僕の言葉に、彼が妙な声で答える。それが可笑しくて、僕は思わず微笑った。微笑うなよ、と彼の目が睨みつけてくる。
「ごめんごめん。…そう、あの空を自由に飛んでる鳥だよ。なりたいなって、思ったこと無い?」
 窓から見えた雀を指差して、僕は言った。けれど、彼がそっちを向いた頃には、もうその雀はどこか遠くへ飛んでしまっていた。あるのは、四角く切り取られた青い空だけ。
「くらだねぇ」
 呆れた、とでも言うように溜め気をつくと、彼はリモコンを操作した。微かなモーター音を立てて、四角い空が狭まっていく。
「何も、カーテンを閉めなくったっていいじゃない」
「……いいだろ。ここは俺様の部屋だ」
 少し頬を膨らせながらいう彼を見て、僕はなんとなくその意味が分かった気がした。多分、僕が彼以外のものを見ているのが気に食わなかったんだ。
 なんとなく、嬉しいかも。
 彼のそういう性格を、我侭だと感じるヒトもいるだろうが、そこまで僕を想ってくれているのかと思うと、僕は嬉しくなる。
「……何だよ」
「べっつにぃ」
 彼の不機嫌さの所為でニヤケ顔になってしまった僕を怪訝そうに見つめると、彼は深い溜息をついた。僕の肩にもたれかかり、足を投げ出す。
「俺は今の俺に満足してる。だから、鳥だとかなんだとかになりたいなんていう気持ちはおきねぇんだよ。それとも何か?お前は今のお前に不満があるって言うのかよ」
 僕に寄りかかったまま、横目で睨みつけてくる。
 多分、彼の言っている今の自分というのは、僕と一緒にいる自分のことで、今の僕っていうのは彼と、跡部と一緒にいる僕ということなのだろう。
 これは、YESって言ったら、怒るんだろうな。
「不満があるって言うかさ、自由に空を飛んでみたいなって思うんだよね」
「……何言ってんだ。今だって散々自由してるクセによ。それに、鳥が空を飛べるからっつっても、自由ってわけじゃねぇぜ」
 否定も肯定もしなかったから、どうやら彼の機嫌を損ねずにすんだようだ。取り敢えずは、安心。
「まぁ、鳥が自由だなんては思ってないけどさ。空を飛んでみたいかなって」
「だったら、俺様んとこのジェット機に乗せてやるよ。それでいいだろ?」
 言いながら体を起こすと、彼は僕の膝に向かい合うようにして座った。見下ろすその目が、だからもう俺以外のモノに焦がれるな、と僕に伝える。
「全く。敵わないな、跡部には」
 ジェット機とかそう言うことを言いたかったわけじゃないんだけど。その想いの強さに、それでもいいやとすら思えてくる。
「まぁ、俺様に勝てる奴なんか、この世にゃ存在しねぇよ」
 勝ち誇ったような顔。これも多分、僕の言わんとしていることと意味は違うのだろうけど。 「そうだね。君は世界…いいや、宇宙一だ」
 言って、微笑ってみせる。それを見た彼が、少し照れたように顔を赤らめるから。僕は彼を抱き寄せると、優しくキスをした
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