135.小さなもの(不二リョ)
「また、牛乳飲んでるの?」
「……不二先輩」
 ベンチに座ってる俺を逆さまに覗き込む。眼が合ったのを確認するように微笑うと、先輩はベンチの前にまわり、腰をおろした。俺の顔を見て、ニコニコと微笑う。
「だって、しょうがないじゃないっスか。乾先輩に言われてるんすから」
 呟いて一気に牛乳を飲み干す。
「そうじゃなければ、誰が好き好んで牛乳なんて飲みま…せ……ん。って」
「ふふ。ご馳走様」
 顔を離した先輩は、舌をしまうと悪戯っぽく微笑った。俺は先輩に舐められた口の周りを腕で拭う。
「大丈夫だよ。もう、口の周りについてた牛乳は僕が綺麗に拭っちゃったから」
「………バカ周助」
「あはは」
「…ったく」
 今度は普通にキスをしてこようとするから、俺はその額を押しやると、大きく溜息を吐いてみせた。持っていた牛乳瓶をベンチへ置く。
「そんな余裕かましてると、俺、アンタを抜いちゃいますよ。一応、もう2センチも伸びたんすから」
 先輩の手を引いて立ち上がると。俺は先輩を見上げた。けど、俺が先輩を見上げる角度は全然変わってないように思えた。と言うか、寧ろ、大きくなってないか?
「それは凄いね。でも僕は、3センチも伸びたんだよね」
 余裕の笑みを見せ、俺の頭をわしゃわしゃと撫でる。
「ちぇっ。いつか先輩に追いつくと思ったのに。何も同じ時期に伸び始めなくても」
「それは残念だったね。でも、君が僕に追いつくことは出来ないよ」
「……何で?」
「だって、それが運命だから。リョーマは、僕にこうして頭を撫でられるのが役目なんだよ」
 ふふ、と微笑うと、先輩はまた俺の頭を撫でた。
 何が運命なんだか。それじゃあ、俺は一生チビのまんまってことじゃん。
「大丈夫だよ。僕の背が高くなれば、僕よりも背が低くてもある程度は高くなれるから」
 なんて都合のいい考え方。楽しげに言う先輩に、俺は溜息を吐いた。と、急に体が軽くなる。
「って。何してんスか!?」
「ね。リョーマが僕よりも高くなっちゃうと、こういうこと、やりにくくなるでしょう?それとも、リョーマがしてくれるの?お姫様抱っこ」
「……じ、冗談」
「だから、これで良いんだよ」
 ふふ、と微笑うと、先輩は紅くなった俺の頬に唇を落とした。
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