137.ダンス(不二跡)
 極力足音を立てないようにして走る。手を繋いだまま。鍵を開け、そこに入ると、急いで内鍵を閉めた。
 荒れた息を整え、息を潜める。
 少し遅れてバタバタという足音と、ヒステリック気味な女たちの声が聞こえてきた。生徒会室のドアが勢いよく開けられる。
 近づいて来る足音。祈るようにして彼は繋いだ手を握り締めた。
 そのとき、こっちだ、という知った声が遠くから聞こえた。そしてその声につられるようにして、足音たちはバタバタと生徒会室を出て行った。
「……行ったみたいだね」
 安堵の溜息を吐く。不二は繋いでいた手を離すと、大きく伸びをした。生徒会室の隣、物置と化している小さな部屋の、唯一の窓を開け放つ。
「当たり前だ。ここは俺様の避難場所なんだからな。見つかるわけねぇよ」
 さっきまでの不安げだった自分を振り払うようにして言うと、跡部は不二の隣に並んだ。離れてしまった手を、再び繋ぐ。
「宍戸クンに感謝しなきゃね」
「あん?」
「助けてくれたからさ」
 あの声が無ければ、生徒会室からも入ることが出来るこの部屋も調べられていただろう。
 思いながら、不二はわけが理解らないといった顔をしている跡部に苦笑した。まぁいっか。呟いて、繋いだ手を強く握り返す。
「それにしても大変だね。去年もああだったの?」
 窓の下、まだ何人かの女子生徒の集団が跡部を探している様を見て、不二は言った。隣で、跡部が溜息を吐く。
「いいや。去年はダンスなんてやらなかったからな」
「今年は?」
「生徒の意見を反映したまでだ」
 生徒会の会長である跡部は、まさか文化祭にダンスを取り入れたいと言った女子生徒の大半の狙いが自分だったということに今日の今日まで全く気づいていなかった。役員である自分は蚊帳の外の存在であり、その退屈を凌ぐ為に呼び寄せた不二とそれを眺めているというのが、彼の予定であった。しかし、それは先ほどの女子生徒たちによって大いに狂わされた。
 まさか、こんな自体になるとはな。溜息を吐き、苦笑する。
「まぁいいじゃない。お蔭で、二人きりになれたんだし」
 言うと、跡部に笑顔を促すようにして不二は微笑った。そうだな、と呟いて跡部も微笑う。そして、どちらからともなくキスを交わすと、開け放たれた窓からゆったりとした音楽が流れてきた。
 跡部の手を引き、不二が生徒会室に通じているドアを開ける。
「不二?」
「ここじゃ狭すぎるから」
 手を離し、生徒会室に入る。続くようにして跡部も生徒会室に入ったのを確認すると、不二は手を差し伸べた。
「折角だから。僕と一緒に踊ってくれませんか?」
「………まぁ、いいだろう」
 仕方がないというような口調で言うと、跡部は不二の手に自分のそれを置いた。ありがとう、不二が呟いてその手を握り締めると、跡部は赤い顔を更に赤くして、ただ頷いた。
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