139.春(不二幸)
 一番嫌いな季節。どんなにしっかり手を繋いでいてもすり抜けてゆく温もり。全ての色が無くなる季節、冬。
「そんな悲観的にならないでよ。いいじゃない。モノクロな季節だって」
 温もりが逃げないように強く手を握ると、不二は微笑いながら言った。はぁ、と俺の手に息を吹きかける。
「知っているだろ。俺が――」
「白が嫌いなんでしょ。知ってるよ」
 勿体無いな、似合うのに。呟くと、不二は俺の手をコートのポケットへとしまった。こうすれば温かいでしょ?と微笑う。その笑顔に呆れたように溜息を吐いた。それにね、不二が続ける。
「冬が来るから、幸村の好きな春が来るんだよ。秋から春になんてなったら、きっと春ってモノはあやふやな感じになっちゃうよ」
「………。」
「ね。そう思わない?」
「……よく理解らないな」
 首を振る俺に、不二が苦笑する。
「まあ、春が来るための試練だと思いなよ。素敵な春を感じる為に、この厳しい冬を乗り越えるんだってさ」
 言うと、不二はポケットの中の手を強く握り締めてきた。見ると、不二は俺の好きな蒼い眼で、じっと俺を見つめていた。そうだな。頷いて、その手を握り返すと、俺は笑顔で不二を見つめ返した。
「そう考えれば、冬も案外悪いものではないかもしれないな」
「うん」
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