140.永遠(不二幸)
「……永遠って、在るのかな」
 僕に寄りかかるようにして本を読んでいた彼は、それを閉じると思いついたように呟いた。僕も本を閉じる。
「どうしたの、行き成り」
「別に。ただなんとなく、そう思っただけだ」
 僕に体重を掛けるようにして伸びをしてくるから。僕は本を置くと、身体を少し前へとずらした。案の定、彼は僕の後ろに滑るようにして倒れた。そのまま、彼の上に覆い被さる。
「永遠、か。僕はそんなもの考えたことないな」
 額にかかる髪を掻き揚げ、露になったそこに唇を落とす。意外そうな顔で見つめる彼に、僕は苦笑した。
「そんな遠い約束を守ることに神経をすり減らすよりは、今日明日の僕たちのことを考えた方がよほど有意義だと思うしね」
 それに、ヒトはいつかは死ぬ。それはヒトだけではなく、この世の全てに言えることで。だから僕は、永遠なんて言葉は信じていない。
 まぁ、他人が信じる分には自由だと思うけど。
「現実的だな」
「そう?まぁ、ロマンばかりを語ってても、幸村を倖せには出来ないからね」
 クスリと微笑い、唇にキスをする。距離を置いて見つめると、彼は今度は不満そうな顔をしていた。また、苦笑する。
「だが、俺は永遠を信じたい」
「……どんな永遠?」
「えっ?」
「例えば、永遠の命、とかさ。そんな感じで。幸村が信じたい『永遠』っていうのは、どういうのなの?」
 少し、意地悪な質問だと思ったけど。はっきりと信じたいと言った彼の永遠ってやつに、僕は多少なりと興味を持ったから。
「……それは」
「ん?」
「不二が、見せてくれるものだと。…信じている」
 真っ直ぐに僕を見つめると、彼は言った。意地悪な質問には意地悪な答え、とでも言った所なのだろうか。やれやれと、思わず僕は溜息を吐いてしまった。けれど、彼はしてやったりというような顔をするどころか、ますます真剣な眼で僕を見つめてきた。
 もしかして。さっきの答えは、意地悪でも冗談でも無いってこと?
「俺の信じたい『永遠』は、幸村精市と不二周助の間にあるもの。それが何なのかははっきりとは理解らないが、それを見せてくれるのは不二しかいない。俺を幸せにしてくれるのは不二だけだ」
 言い終えると、彼は微笑った。その笑顔に、溜息を吐く。
「全く。ずるいな、幸村は」
 確かに、彼を倖せにすることが、僕の望みだけれど。
「別に無理難題を押し付けるつもりはないさ。不二がこの先ずっと、永遠に俺を幸せにしてくれればそれでいい」
「……それはなかなか難しいね」
 呟いて、その頬に触れると、彼にキスをした。その手を滑らせ、彼のシャツのボタンを外す。
「難しくなんてない。ただ、不二が傍に居てくれれば。それだけで俺は幸せでいられる」
 僕の手を取り指を絡める。彼の真剣な眼に笑みを見せると、首を横に振った。
「……やっぱり難しいよ、それは」
「何故…?」
「それを僕一人で叶えるのは難しい、というより、無理だからね。君と僕の間に永遠を見たいのなら、それは僕だけじゃなく、僕と幸村の二人でじゃなきゃ駄目だよ」
 僕の言葉に暫くの沈黙をおいたあと、彼は、それじゃあ、と呟くと、僕の手を更に強く握った。深呼吸をし、僕を見つめる。
「俺と一緒に永遠を見せてくれないか?」
「喜んで」
 頷いて微笑って見せると、彼も満足そうに微笑った。
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