144.リズム(不二リョ)
 俺が図書当番をしている間、先輩は窓際の席に座って終わるのを待っていてくれる。そのとき、本を読んでいることがほとんどだけど。今日みたいに窓の外をぼんやりと眺めているときも偶にある。俺は、こっちの先輩の姿の方が好きだったりする。
 確かに、読書中の真剣な眼も、どこか遠くを眺めるような眼も、どっちも同じくらい好きなんだけど。違うのは、指先。今日も、先輩の細くて長い指は、トントンとリズムを刻んでいる。口元に笑みを浮かべて、頭の中に好きな曲を流して。
 その指先のリズムを聴きながら、俺は先輩の部屋で聴いた曲の中から、それに合うものを考える。先輩の知っている曲を総て知っているわけじゃないし、聴かせてもらったからってちゃんと憶えてるわけじゃないけど。それでも、俺の頭をフル活用させて考える。
 そうしてるうちに、先輩が俺に気づいて、ふ、と笑みを見せるんだ。そして。
「…何の曲か、分かったかい?」
 優しい声で聴いてくる。だから俺は、どうしても。
「分かるわけないじゃないっスか」
 不貞腐れたような声を出してしまう。
 でも、それはいつものことだから。先輩は気にしない様子で、また指先でリズムを刻む。但し、今度は歌声つきで。
「図書室では静かにして下さい」
「大丈夫だよ。どうせ誰もいないんだから。まぁ、いいや」
 呟くと、先輩は立ち上がった。カウンタの中に入り、俺の隣に座る。
「これなら、いいでしょう?君が正解したら、止めるからさ」
 微笑いながら触れるだけのキスをすると、先輩は俺の隣でリズムを刻み始めた。そして、俺だけにしか聴こえない声で歌う。
 楽しげに歌う先輩に、俺は余り納得していないような顔をする。そして、その曲を知らないフリをして、先輩の歌声に耳を傾ける。
 もう直ぐで、閉館時間がやって来る。
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