145.カメラ(不二乾)
「そろそろデジカメにしたらどうだ?」
 愛用のカメラを手入れをしている僕を覗き込むと、彼は呟いた。何なら俺のを貸してやってもいいぞ。少しだけ自慢げに言う。
「デジカメなら、もう持ってるよ」
 溜息混じりに、顔を上げずにパソコンのほうを指差す。そこに置いてあるデジカメを見たのだろう。彼は、そうか、と溜息混じりに呟いた。微笑い、顔を上げる。
「いつから持ってたんだ?」
 少し不満そうに言うと、微笑ってる僕の頬を両手で挟んだ。俺のデータには載ってないぞ、と呟く。
「去年くらいかな。まぁ、デジカメはね、写真をパソコンでいじりたいと思ったときくらいしか使わないから。だからまだメモリに空きもいっぱいあるし、写真屋さんに現像を頼んだことも無いんだ」
 立ち上がり、クローゼットを開けると、今まで加工した写真をプリントアウトしたものを彼に渡した。それらを見ながら彼は、ほう、なんて少し偉そうな声を上げる。
「テニスじゃなく、こっち方面に進んだらどうなんだ?」
 そうすれば俺がNo.3に返り咲く。呟く彼に、せこいね、と僕は苦笑した。うるさい、と返される。
「ま、高校でテニスはやらないから安心して」
「……そう、なのか?」
「うん。カメラ(こっち)を本格的に始めようかと思ってさ」
 シャッターを切るフリをして言う僕に、彼はデータノートを取り出して何やら書き込んだ。その後で、ノートを見ながらうんうんと唸り声を上げる。
「何?」
「いや…だったら練り直さなければと思ってね」
「何を?」
「不二に試合で勝つ計画をだよ」
 僕の机から勝手にペンを取り出し、ノートに書き込む。それを覗き込もうとしたけど、駄目だ、という声と共にノートを閉じられてしまった。まぁいっか。溜息を吐く。
「でも、止めないんだね」
「何だ?」
「僕がテニスを辞めること」
「ま、俺が止めても聞かないだろうからな」
「そうだね。乾は影響力ゼロだもんね」
 ふふっ、と微笑いながら言う僕に、彼は肩を落とすと、ひどいな、と呟いて微笑った。
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