148.親子(不二リョ)
「まーた、親父んとこ行ってただろ」
 僕の膝に勢いをつけて座ると、寄りかかってきた。手を伸ばして、僕の髪を触る。
「しょうがないじゃない。玄関で待ち伏せされてたんだから」
 その手を取り指を絡めると、甲にキスをした。
「南ちゃん、なかなか放してくれないんだもん。でも、キスしかしてないよ」
 微笑いながら言う僕に、彼が更に頬を膨らせる。
「キスだけでも浮気と同じっスよ。周助は俺だけのものなんスからね」
「不満、僕が来るまでリョーマが玄関で待ってれば良いじゃない」
「嫌っスよ。暑いし」
「ふーん。リョーマの愛ってその程度なんだ」
 わざとらしく溜息をつき、彼から手を離す。振り落とすようにして立ち上がると、僕はベッドに仰向けに寝転んだ。
「……どーいう意味っすか?」
「僕を誰かに取られるとかっていうことより、自分が暑いとこにいるって言うほうが嫌なんでしょ?所詮リョーマの愛って言うのはそこまでだってことだよ。それに引き換え、南ちゃんは凄いよね。いつ僕が遊びに来るか分からないからってずっと玄関で待ってるんだからさ。抱き締められた時、ちょっと汗臭かったなー。まぁ、あれも愛情の表れだと思えば許せるけどね。とてもリョーマの親とは思えないくらいの献身ぶりだよ。それに素直だし」
「…………」
「リョーマ?」
「だったら、親父とくっつけばいいだろっ!第一、周助が拒まないから親父が図に乗るんじゃん」
 顔を真っ赤にして言うと、彼は僕の上に乗っかってきた。体をピッタリと合わせて。僕の胸に顔を埋めて。
「さっさと親父のとこ行っちゃえよ、バカ」
 淋しそうに、呟く。
 全く。言ってることとやってることがまるで逆だよ。僕は微笑った。
 口では素直じゃないけど、態度では素直なところが、やっぱり親子だって思ってしまう。何てこと、二人に言ったら怒るだろうけど。
「行かないよ、どこにも」
 彼の頭を撫でるようにして、抱き締める。暫くそうしてると、落ち着いてきたのか彼が顔を上げた。少し潤んでいる眼に、苦笑する。
「行かないよ。だって僕はリョーマに会いに来てるんだよ?」
「……だって、親父のほうがいいみたいな言い方…」
「ごめんごめん。あれはリョーマに妬いてもらいたかっただけ」
 それと、そうまでして僕を待っていてくれるんだから、完全拒否はして上げられないよ、って言う意味も合ったんだけど。それを言うと、今度こそ本当に彼が怒ってしまいそうだから、やめた。
 彼を抱き上げ、僕と真っ直ぐ見つめ合える位置までその体をずらす。
「ね。だから今日はずっと一緒にいよう?」
「……しょうがないっスね」
 頬に触れた僕の手に自分のそれを重ねて言うと、彼のほうからキスをしてくれた。
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