152.ふわふわ(3-6)
「不二、なーに作ってんの?」
 誰もいない放課後の教室。不二がこないだ俺が食べさせたふわふわオムレツのお礼にふわふわしたモノを食べさせてあげるって言うから。大人しく残ったんだけど。
「んー。それは見てのお楽しみ」
 微笑いながら机に散らばったモノを組み立てる不二。でも、そこにはふわふわしたモノからは掛け離れたモノばかりが置いてある。
 机にあるのは、キリでてっぺんの真ん中に1つ、底の真ん中に2つ、それとわきっちょ下の方に沢山穴を空けた空缶。腕ぐらいの長さのある太い針金。黒いビニールテープ。割り箸。あとは電池ケースの取り付けてあるモーター…?
「完成したらこれあげるけどさ。作り方、一応英二も覚えとくといいよ」
 言うと不二は穴を空けてたキリを置いて、俺の顔を見た。いい?と眼で訊いてくるから、俺は黙って頷いた。不二の手元をじっと見つめる。
「まずは、この針金を缶の上の穴から下の穴に通して、先を少し折り曲げて、底のもう1つの穴に通す。これで、上から引っ張っても針金は抜けない。次に、この針金の先にモーターをくっつける。離れないように、ちゃんとテープで止めてね。これで終わり」
 不恰好、じゃないけど、なんか凄くちゃっちい感じのするそれを俺に見せると、不二は微笑った。頭にはてなを浮かべる俺に構わずに、それを手渡す。
「……これが、ふわふわしたモノ?」
「んー。正確には、ふわふわしたモノを作るための装置」
「装置…にしてはなんかなー」
「ちゃっちい?」
「…………うん」
 頷く俺に、不二は正直者だなぁ、と微笑った。そして、なにやらバッグを漁り始めた。
「まぁ、ちゃっちいかどうかはソレを使ってふわふわしたモノを作ってから言ってよ」
 そういうと、不二はアルコールランプとマッチ、食紅、それと……よくわかんないモノを取り出した。
「不二。これなに?」
「ああ、それ?ザラメっていう砂糖だよ。なんだ。料理作るのに英二知らないんだ」
 クスクス微笑いながら言う不二にムカッと来たから。俺は思わず声を荒げて、知ってるよ、と言ってしまった。それがいけなかったのかもしれない。不二は、そうか知ってるよね、と余裕の笑みを見せながら言った。
「別にこれはガスコンロでも良いんだけどさ。家庭科室は借りられないから、理科室からパクってきたんだ。だから、これはないしょだよ?」
 言うと不二はアルコールランプに火をつけた。ガスコンロ使いたいんだったら、別にうちでやってもいいんじゃない?とか思ったけど、そこらへんは不二のこだわりがあるのかもしれないから、やめておいた。
「ちょっとそれ、貸して」
「ああ、うん」
 不二に装置を渡す。その缶の中にザラメとほんのちょっとの赤い食紅を入れた。アルコールランプに翳して温める。
「……何すんの?」
「はい。これ持って。……もういいかな」
 俺に割り箸を渡すと、不二は中途半端にはまってた電池をしっかりと電池ケースにきちんとはめた。途端に、モーターが回りだし、それにくっついてる空缶も回る。
「あーっ!」
 周る空缶から出てきたのは、ピンク色の糸。
「ほら、早くその割り箸で巻き取って」
「うん」
 不二に言われて、俺は慌てて割り箸でその糸を巻き取った。もうここまで来たら、これが何かくらい俺にだって判る。わたあめ、だ。
「ね。これが僕から英二へのふわふわ。違う色の食紅を入れれば、違う色のわたあめが作れるよ。どう、おいしい?」
 モーターを止めると、不二は頬杖をついて俺を見た。頷く俺に、満足そうに眼を細める。
「良かった。じゃあ、あと2つ作ろうか。もう少ししたら、手塚と大石が僕たちを迎えに来るから、さ」
 缶に再びザラメを入れると、不二は点きっ放しのアルコールランプにそれを翳した。俺に早く割り箸を用意するように促す。それで理解った。不二が何で学校でこんな事をしようと思ったのか。
「………もしかして、不二。手塚にこれを食べさせるために学校で作った?」
「さぁね」
 割り箸で不二の顔を指して訊く俺に、不二は意味深に微笑った。
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