153.静寂(不二菊)
「ふーじっ。にゃに見てんの?」
 見上げていた空のかわりに、視界いっぱいに英二の顔が広がる。僕と眼が合うと、英二はニッと微笑った。
「空、見てたんだ」
 腕を伸ばし、その頬に触れる。その手を取ると、英二は僕に起きるように言った。それに従い体を起こすと、英二は僕の隣に座った。指を絡めて、僕の肩に頬を寄せる。
「英二。その体勢、きつくない?」
「んー。ちょっちきついけど、不二の匂い好きだからヘーキだよん」
「何、それ」
「不二の匂いぃ。うにゃー」
 溜息混じりに呟く僕に、英二はだらしのない猫の声を真似ると、本当の猫のように僕に擦り寄ってきた。ゴロゴロと言いながら、首筋に顔を埋めてくる。
「くすぐったいよ。ね、離れて。また怒られちゃうよ」
 額を押して顔を離そうとするけど、そうすればするほど、にゃーと鳴く英二は僕に絡み付いてきた。
 しかたない、か。どうせ今は昼食の時間でみんなここにはいないし。何をやってても許される、かな。
 抵抗を止め、英二のされるがままになると、僕はまた空を見上げた。
 真っ青な空に、ぽつんと小さな白い雲。遠くにある大きな雲からはぐれて迷子になっている見えて、僕は微笑った。
「んにゃ?なーに笑ってんだよぉ…」
「英二のことじゃないから、気にしないで」
 頬を膨らせながら僕を見つめる英二に微笑うと、その頬にキスをした。ちょっとの間の後で、英二が顔を朱に染める。
「っにゃにするんだよ」
「んー。怒ってる英二も可愛いなって思ってさ。でも、微笑ってるときが一番可愛いけどね」
 僕を抱き締めてる英二の腕を解き、指を絡める。その眼を見つめると、僕はもう一度、今度は唇にキスをした。
「ね。だから微笑って?」
 問い掛ける僕に、英二は照れながらも満面の笑みを見せてくれた。
 遠くで、昼休みの終わりを告げる、切り忘れたチャイムが鳴った。
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