154.うれしい!(不二切)
 僕の部活が休みの土曜日。もう殆んど習慣になりつつある、荷物持ち。自分の部活もあるだろうに、声をかけた時に彼が断った試しが無い。たまに、撮影しないからと連絡をしないでいると、彼の方から連絡がかかってくる。
 写真を取る僕の隣で、ただ荷物を持っている。それだけなのに。彼は何故そんなに楽しそうなんだろう。
「随分と、楽しそうだね」
 一通り撮影を終えると、鼻歌を歌いながら待っていた彼に言った。
「楽しいっスよ」
 カメラのケースを開けながら、答える。僕はそこにカメラをしまうと、近くのベンチに彼と座った。
「ただの荷物持ちなのに?」
「ただのって。不二サンにとってはそうかもしれないっすけど。オレにとってはデートと同じ。だから楽しいっスよ」
 ニッと微笑う。その笑顔とは反対に、彼はおずおずと僕に近づいてきた。しょうがないな。今までは拒絶してたけど、今日はそんなに陽射しが強くないから。そのまま何もしないでいると、彼が僕の肩に頬を寄せた。
「……楽しいっつーか、嬉しいかもしれないっスね」
「嬉しい?」
 彼の頭がすぐそこにある所為で、僕は眼だけで彼を見た。少し頭の角度を変えた彼が、僕を見上げる。
「そうすよ。だって不二サン、オレのこと好きじゃないっしょ」
「うん。嫌いだね」
「……そんなはっきり言わないでくださいよ。もう、オレはあの時とは違うんスから」
 苦笑しながら言う彼に、僕は微笑った。
 確かに、あの時までとは違う。誰かを傷つけることしか考えていなかった彼が、今では犬のように僕に擦り寄り尻尾を振ってるんだから。
 まぁ今は、僕の嫌いと言う言葉に、ピンと立っていた耳も激しく振っていた尻尾も、しょぼんとしてしまっているけど。
「でもっス。そんな不二サンが、どんな理由であれオレと一緒に時間を過ごしてくれてる。こんな嬉しいことってないじゃないっスか」
 顔を離し、僕を見る。曖昧に微笑って見せると、彼はニッと微笑ってまた尻尾を振り出した。
「だから、オレは今すっごく嬉しいし、楽しいんス」
「そっか。安上がりだね」
「高望みしたって叶わないっスからね。コツコツと行きますよ」
 コツコツ、か。ということは、いずれは僕とどうにかって言うのを考えていくってことなのかな。そんなこと、一生かかってもありえないんだけど。
 まぁ、いいか。
「ん。まぁ、頑張ってね」
 にっこりと微笑い、彼の頭を撫でる。嬉しそうにそれを受けた彼は、頑張るっス、とさらに意気込んだようだった。
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