155.フルーツ(不二幸)
「何?」
「……別に」
「あ、そう」
 意味もなく頷くと、不二は再びナイフに視線を落とした。手に持っている林檎が迷いなくクルクルと周り、連なる皮は、一本だけ。まるで魔法のような手。俺はそれに、見惚れていた。
「はい、どーぞ」
 八等分したうちの一つを、俺に差し出す。
「……幸村?」
「え?」
「もしかして、林檎、好きじゃなかった?ゴメン、僕好きだからさ、幸村も好きかなって勝手に思っちゃったんだけど」
 黙っていた俺に、不二は出した林檎を引っ込めた。慌てて笑顔を作る。
「林檎は俺も好きだ。ただ、不二の手が」
「手?」
「ああ。器用なんだなと思っただけさ」
「ん。まぁね」
 林檎に手を伸ばすけど、不二に皿を下げられてしまった。訳も分からず不二を見ると、にっこり微笑って俺に林檎を差し出した。そのまま、不二の手から一口齧る。
「……何か、照れるな」
「そう?甘えん坊の幸村だから、こういうことして欲しいのかなって思ったんだけど」
 はい、ともう一口俺に差し出す。頬を赤らめながら大人しく齧る俺を見て、不二はクスクスと微笑った。
「憶測で物を言うのはやめてくれないか?」
「でも、当たってるでしょう?」
「……まぁ、それは」
 口篭もる俺に、また、クスリと微笑う。
「本当はね」
「?」
「林檎って皮ごと食べた方が栄養があるんだよ」
「……じゃあ、何故?」
「んー。これもまた、憶測なんだけどね。幸村が、僕が林檎の皮を向いているときの手が好きかなって。ね、当たってた?」
 新たな林檎を取り、それを俺に出しながら不二は訊いた。けど、図星を指されたことに顔が赤くなり、顔が上げられない。
「図星、か。今の所、僕の憶測は全て正解。これでも幸村は、憶測で行動するなって言うの?」
「……分かったよ、降参だ。全く、敵わないな、不二には」
「だって、幸村を倖せにするのが僕の使命だからね」
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送