156.雪(不二リョ)
 宙に向かってシャッターをきるそのヒトを、俺はただ、ベンチに座ってみていた。
 一通り撮影が済んだのか、カメラをポケットにしまい、俺の目の前に立つ。
「肩、雪積もっちゃったね」
「アンタが待たせるからっしょ」
 俺の肩に積もった雪を振り払ってくれるその手を、しっかりと握り締める。その冷たさに、先輩は驚いたようだった。俺の顔をじっと見つめる。
「風邪引いたら、アンタが責任とってくださいよ」
 かじかむ手で指を絡める。先輩は眼を細めて微笑うと、俺の手を引いて立たせた。繋いだ手が、先輩のコートのポケットの中に入っていく。
「看病なら、喜んで。でも、それよりも」
 言葉を切ると、先輩は見上げる俺の額に唇を落とした。冷たい、と微笑う。
「それよりも、何?」
「風邪を引かないように、温め合おうか。どう?」
「………好きにすれば」
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