158.秋(不二乾) |
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「雨、止まないね」 「俺たちは既に引退してるんだから、関係無いさ。それよりも、だ。受験勉強をしに来たんじゃなかったのか?」 俺のベッドで仰向けに本を読んでいる不二を振り返った。本から眼を離し俺を見る。眼が合うと、不二は微笑った。 「いーの。僕は天才だから。受験勉強は冬になってからで大丈夫」 「……だったら、受験勉強をするという理由で家に来たのは嘘になるな」 睨み、少し強めの口調で言う。けれど、不二は笑顔のままで、あっさりと頷いた。 「嘘、吐くなよ」 「いいじゃない。だってさ、普通に僕が乾の家に行くって言ったら、絶対嫌がるでしょう?」 「嫌がるかどうかは、理由を訊いてから見当するさ」 「その理由が、厄介なんだよ」 よっ、と勢いをつけて起き上がると、不二は俺の手を思い切りひいた。 「っ」 バランスを崩した俺は、不二の上に倒れこむ。 「部活がある間はさ、理由なんてなくても毎日一緒に居れたけど。今はそうはいかないじゃない?もし同じ高校に入って同じようにテニスを続けてれば、また毎日一緒に居れるけど。それにしたって、秋と冬と、後二つも季節を跨がなきゃならないんだよ?」 俺の頬を挟み、じっと見つめると、キスをした。俺を強く抱き締めたままで、体の位置を入れ替える。 「だから。嘘を吐いてでも、一緒にいたいんだよ。だって乾は、何事にも理屈をつけたがるからね」 「………。」 「乾?」 「……不二がここまで馬鹿だったとは。いいデータが取れたな」 驚いて俺を見つめる不二をそのままに、手を伸ばし、データノートを探る。やっとのことで掴めたと思ったら、その手を、不二に掴まれた。 「莫迦とは、非道いね」 少しムッとした表情で、俺の顔を見つめる。俺は溜息を吐くと、ノートから手を離した。不二の頬に触れる。 「『毎日一緒に居たい』というのは、立派な理由だよ。他の誰には通らなくても、俺にはその理由で通る」 不意に俺の手を掴んでいた不二の手から力が抜ける。その手も使い、不二の両頬に触れると、俺は微笑って見せた。少し送れて、不二も微笑う。 「そうだね」 呟くと、不二はまた俺にキスをした。 |
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