160.深(不二跡)
 静まり返った部屋。聴こえるのは、僕の膝の上に足を乗せた状態でソファに横になっている彼の吐息。それと、僕がまばらに頁を捲る音。
 全く。彼の甘えにも困ったものだ。
「跡部」
 呼びかけると、彼の唇が僕の名前をなぞる。そういう可愛いところがあるから、どうしても許しちゃうんだろうな、なんて苦笑い。
 今日は久しぶりのオフで。家でゆっくり買いだめした本でも読もうと思っていたのだけれど。
 早朝にかかってきた電話が、僕の計画を見事に狂わせてくれた。
『今日、暇か?』
『今日は出掛けずに家で読書する予定なんだけど』
『じゃあ、家に来い』
『は?』
『だから、家に来いつってんだよ。今から車で迎えに行かせるからよ』
『ち、ちょっと跡部。僕の話聞いてた?』
『読書するってんだろ?だったら俺様の部屋でしろ。邪魔なんてしねぇから。じゃあ、準備しとけよ』
『あっ……とべぇ…』
 確かに、彼は邪魔しないでただ僕の傍に居るだけなんだけど。そんな可愛らしい寝顔の横で読書に集中できるはずが無いんだよ。
 溜息を吐き、本を閉じる。大きく伸びをすると、彼が眼を醒ました。
「どこか行くのか?」
 寝起きなのにも関わらず、はっきりとした口調に、僕は、欠伸しただけだよ、と苦笑しながら答えた。ほっ、と大袈裟なくらいの溜息を、彼が吐く。
「寝てたんじゃなかったの?」
「寝てた」
「その割には、寝起きが随分といいんじゃない?いつもベッドの中では愚図ってるのにさ」
「……うるせぇよ」
 呟いて伸びをすると、その伸ばした手を僕に向けてきた。その手を引っ張って彼の体を起こしてやる。もぞもぞと体の位置を直すと、彼は腕を僕の首に絡ませてきた。そのまま、僕の頬に頬を寄せる。
「他人の前じゃ、デリケートな俺様は深い眠りに就けねぇんだよ」
「他人っていうのは非道いんじゃない?僕と君はただならぬ仲なのに。それに、ベッドではちゃんと深い眠りについてるじゃない」
「誰がてめぇを他人だって言ったよ。……不二と、なら、熟睡できる」
「でも、さっきは出来なかったんだよね?熟睡」
「それは…あれだ。場所がソファだったから、寝心地が悪かったんだよ」
「そんなもんかなぁ」
 多少顔を赤くしながら言い訳をする彼に、僕は呟いた。彼を抱き締めていた腕を解き、ソファの座り心地を確認する。そんなに悪くはないと思うんだけど。やっぱり、彼は感覚が別なのだろう。
 ………そうだ。
「ねぇ、跡部。実験してみない?」
「実験?」
「そう。どうすれば君がソファでも熟睡できるか」
「……どうするってんだ?」
「だから。ベッドで僕と寝る時にすることと同じことをしてみるんだよ」
 見つめる彼に、ニッと微笑うと僕はキスをした。そのまま、彼をソファに倒す。
「ちょっ、待て。お前、読書するんじゃなかったのかよ」
「気が変わった」
「……っ不二!!」
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