161.コピー(不二忍)
「あーっ、だからさっきから謝っとるやろ?悪かったって」
「そーだねー。忍足が悪いよねー。何てったって、僕を騙して羆落としを会得したんだから」
 必死という顔で僕の前に跪き両手を合わせて謝っている彼を無視するように、僕はベッドに仰向けになった。視界に彼は入って来ない。
「悪かった。すまんっ」
 どうやら、まだ跪いているらしい。
 この間の対氷帝戦で、彼は見事に僕の羆落としをコピーした。しかも、それがあたかも自分が編み出した技で偶然僕の羆落としと似てしまったとでも言うような態度で。
 種を明かせば、僕が何気なく訊いてきた彼に羆落としのコツみたいなのを教えてしまったというだけ。まぁ、それを知ってるからといって簡単に打てるわけじゃないから、見事に羆落としを決めて見せた彼の才能は認めるし、高をくくってた僕も悪いんだけど。
「なぁ、不二。ええ加減機嫌なおしてぇな」
 キシ、とベッドが音をたて、僕の視界を彼の情けない顔が塞ぐ。無視していると、キスをされた。
「もう二度と羆落としは使わんから。なっ」
「……理解ってないんだね。僕がなんで怒ってるのか」
「へっ?羆落としをオレが真似したからちゃうんか?」
 聞き返してくる彼に、僕は手を伸ばして眼鏡を奪うと、ただ微笑った。困惑している彼に、今度は僕からキスをする。
「別にいいよ、羆落とし使っても」
「ほんまか?」
「ほんまほんま。但し」
 ニッと微笑って見せる。嫌な予感がしたのだろう。彼は、うっ、と小さく声を漏らすと、起き上がろうとした。それよりも先に僕の両手が彼を捉え、投げ飛ばすくらいの勢いで身体の位置を入れ替える。
「……但し、なんやっちゅーねん」
 もう僕から逃げることを諦めたのだろう。彼は意を決したというような眼で、僕を見つめた。…つもりなのだろうけど。どう見ても、その眼は怯えるウサギ程度にしか見えない。
「まず、技のレンタルを許可する変わりに、それはベッドの中で僕からレクチャーされたってことを…そうだな、せめて氷帝テニス部の皆さんにはきちんと説明しておくこと。それと、レンタル料として、一回使うごとに僕に一回奉仕すること。ああ、これは公式試合に限ったことでいいよ。これから先、一生の、ね」
「………阿呆ちゃうか」
「僕は、大真面目だよ」
 どうする?呟いてクスリと微笑うと、彼に深めのキスした。きっと、どうするか考えているのだろう。彼は僕に何も返してこなかった。唇を離し、どうする?ともう一度訊く。
「……わかった。もう氷帝(うち)のレギュラーには大方オレらの関係バレとるんやし。その条件、飲んだるわ。……っちゅーことは、や」
 言葉を切ると、彼は腕を伸ばして僕を抱き寄せた。耳元に、彼の吐息を感じる。
「不二は一生オレんとこにいてくれるっちゅーことやな。なんてったって、この先ずっと、オレが公式試合で羆落としを使うたびに不二に奉仕せなあかんのやから」
 チュ、と音を立てて耳朶にキスをすると、彼は身体を離した。そういうこっちゃろ?と満足げに訊いてくるから。どうしてもその顔を崩してみたくなる。
「ま、忍足と別れたいときは、契約内容を変更するまでだよ。それに、身体だけの関係って言うのも僕は嫌いじゃないしね」
「………おまっ……まぁ、ええか。どうせ、今んとこは別れる気ないんやろ?」
 折角その顔を元の情けない顔に戻せると思ったのに。どこで身につけたのか、彼は開き直ってしまったようだった。
 まぁ、いいか。呟いて、溜息を吐く。って、これ。もしかして忍足は僕に似た?
 ………まぁ、いいか。
「不二、どないしたん?」
「ううん。何でもないよ。じゃあ、早速…」
 言うと、僕は彼の身体を起こした。彼の手を、僕のズボンのファスナーに宛がう。
「……へ?」
「『へ?』じゃないよ。この間の試合の、レンタル料。早速払ってもらわないとね」
「ちょいまち。その契約って今日からなんちゃうんか?」
 明らかに狼狽えている。やっとその顔に戻ったことに、僕は微笑った。そうそう、やっぱり忍足はこうでなくっちゃ。
「誰もそんなことは行ってないでしょ。それとも忍足、また僕の機嫌を損ねさせ――」
「はいっ、喜んで奉仕させていただきます!」
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