162.雫(不二リョ)
 ザー、という音を立てて、突然降ってきた雨。彼の手を引くと、僕は近くのコンビニに走った。中には入らず、外壁にぺったりとくっついて雨宿りをする。
「いきなり降ってくるなんて。ルール違反っスよ」
「そうだね。もうちょっともつかと思ってたのに」
「……って、雨が降るって知ってたんスか?」
「風がね、湿っぽかったから」
「…………変なヒトっスね、不二先輩は」
 学ランについた水滴を払いながら、彼は呟いた。そのたどたどしい手つきに、微笑う。
「でも、そういう所が好きなんでしょ?」
 テニスバッグから使っていないタオルと取り出すと、僕は彼の変わりにその雫を落としてやった。大人しくそれを受けれいている彼に、また微笑う。
「さっきからなに微笑ってんすか。気持ち悪ぃ…」
「これが夏だったらさ、濡れたシャツで越前くんの肌が透けて見えたりするんだろうな、って」
「っ変態」
 僕の言葉に、彼の顔が一瞬にして赤くなる。そんな彼の一挙一動が可愛くて、僕はどうしても微笑ってしまう。
「あんまり変だ変だって言わないの。そんなこといったら、変な僕を好きな越前くんはもっと変になっちゃうよ」
「……何それ」
 クスクスと微笑いながら言う僕に彼は呆れたように返すと、僕の手からタオルと奪った。なに?と見つめ返す僕に、彼がニッと微笑う。
「交代っス」
 背伸びをし、僕の制服についた水を一所懸命に払う。ただでさえたどたどしい手つきなのに、背伸びをしているから、思わず抱き締めてしまいたくなる。
「……変な気、起こさないで下さいよ。ヒトいるんスから」
「また変って言う」
 顔に出てたのかもしれないな。彼に思考を読まれるなんて。僕は苦笑すると、彼の為に少し屈んだ。これで地に踵をつけてくれるだろうと思ったけど、彼はそれをせず、背伸びをしたままで僕の髪をガシガシと拭いた。
 視界をちらちらとタオルが塞ぐ。
 そう言えば、僕は彼の髪を拭いてあげてないな。
「よしっ、と」
 呟いて踵をつけた彼を見ると、案の定、その髪は濡れ、雫が滴っていた。彼の手からタオルを受け取り、彼の頭にそれをかける。
「なに?」
「髪、拭いてあげてなかったからさ」
 顔を近づけ、ニッと微笑い返すと、僕は彼の額に口付けた。張り付いた髪から滴る雫を、吸い取る。
「ばっ……誰かが見てたらどうするんすか!?」
「大丈夫。タオルで何やったか見えてないはずだから」
 もっとも、君の真っ赤に染まった顔は丸見えだけどね。言って微笑うと、僕は彼の髪を優しく拭いた。
「バカ周助」
 タオルの端で顔を隠しながら、彼はそれでも少し嬉しそうに呟いた。
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