165.パニック!(不二切)
「〜♪」
 すこし調子のズレた鼻歌。僕と手を繋いでいる彼は、もうそのことにはすっかり慣れてしまっているようだった。
 僕が手を離さないと安心しきってるから、自分は殆んど力を入れていない。
 だからって、脱力しているわけじゃ無く。僕が少し早足にならなければいけないほど、彼の足取りは軽かった。
「もう少し、ゆっくり歩いてくれないかな?」
 でしゃばり過ぎた犬の足を止める要領で、繋いだ手を引く。
「何でっスか?」
 上半身を軽く反らせた状態で、彼は訊いてきた。その軽い口調に、溜息を吐く。
「あのね、赤也。忘れてると思うけど、僕はこの公園に写真を撮りにきてるんだよ?」
「知ってますよ。そんで、オレが荷物持ち」
「そう。だからもう少しゆっくり歩いて景色を――」
「だったら、早く撮影スポットに行きましょうよ。オレ、真剣な眼でシャッター切ってる不二サンの顔、好きなんスよね」
 僕の言葉を聞いていないのか、彼は言うと、再び軽い足取りで歩き出した。
 全く。目的地が決まってるなら、荷物持ちなんて必要ない。ふらふらしながらいいと思ったモノを撮る為に、彼(荷物持ち)が必要なのに。
 第一、荷物持ちをする変わりに手を繋いでいて欲しいと言ってきたのは彼のほうだ。僕がしっかりとその手を握っている理由は無い。……はずなんだ。
 立ち止まり、手を緩める。それに気づくかと思ったけど、彼は足を止めることはしなかった。滑るようにして、手が離れる。
「……不二サンっ?!」
 僅かでも触れていたときは気づかなかったのに。離れた瞬間に、彼は立ち止まり、振り返った。無言、無表情で見つめる僕の周りを、オロオロと言う表現が似合いそうな顔で、くるくる廻る。
「お、オレ、何か悪いことしたっスか?だったら、よく理解んないけど、謝ります。スミマセンでした。だから…」
 そこまで彼が言ったところで、僕は耐え切れなくなって、吹き出してしまった。
「不二、サン?」
 突然笑い出した僕に、ワケが解からないといった顔をする。その一挙一動が、可愛いと思う。本当に。
 だから。
「好きだよ」
 言って手を伸ばすと、僕は彼に触れるだけのキスをした。
「えっ、あー」
「君が僕にこのまま尽くしてくれるなら、ペットからコイビトに昇格してあげてもいいよ?」
 クスリと微笑い、もう一度キスをする。
「っと。へ?あ?……えっ?」
 混乱しているのだろうか。彼は真っ赤な顔で疑問符を何度か繰り返したあと、突然僕に手を差し出すと言った。
「おはようございますっ!」
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