167.泡(3-6)
「なんかさー」
「ほえ?」
「鯉に餌付けしてる気分」
 ぼんやりとした口調で言うと、不二は俺に向かって、ふぅ、とシャボン玉を吹き出した。小さくてたくさん出て来たそれを、ひとつ残らず食べていく。
 最後の一個を机につくギリギリのところで何とか食べると、不二が拍手をした。
「上手いねー」
「うん、美味しいよ」
「いや、そういう意味じゃないんだけど」
「分かってるって」
 笑いながら言う不二に、俺も微笑った。今度は俺の番、と持っていたシャボン玉を不二に向かって吹く。
「ちょっ、英二。僕に向けてやらない約束」
「あっ。そーだっけ?ごっめーん」
 惚けた振りして謝りながら、内心舌打ちをした。せっかく不意をつけたかと思ったのに、不二は向かってくるシャボン玉を上手くよけ、そして手で全部握りつぶしてしまった。その動きは格好良いっぽいけど、やってることは何か、残酷。
「全く。危険だから、これ、没収」
「あーっ」
「あー、じゃないよ。僕に向けて使わないって言うから、貸したんだからね」
 泣きつく俺に、不二はあっさりと言うとシャボン玉を鞄にしまった。残ったのはさっきまで不二が使ってたやつ。
 しょうがないから、自分の頭の上に作って、降って来るのをひとつ残らず食う。
 今日は学校が早く終わって、部活までは何故か1時間、時間が空いてる。家に帰ろうかと思ったけど、不二が遊ぼうと言うので、残ってやった。 不二が用意してきたのは、シャボン玉。ひとつは今俺が食ってたやつで、苺の味のする、食べれるシャボン玉。もうひとつはさっきしまわれちゃったやつ。ものに触れても割れないシャボン玉。でもこれが結構厄介で。髪とか服とかにつくと、長い間そのまま残っちゃうらしい。割ったら割ったで後もつくし。だから、さっき不二は怒ったってわけ。つーか、怒るくらいなら、初めから持ってくるなって話だよな、全く。まあ、不二との約束を守った俺も悪いんだけどさ。
「英二、口パクパクしてるの、鯉みたいだよ」
 また、不二が言う。
 そんなに鯉っぽいかな?と思い、ガラス窓に映る自分の姿を見てみた。確かに、顔を上に向けてパクパクと口をひっきりなしに動かしている姿は、餌に気持ち悪いくらい群がる鯉に似てなくもない。
「ん?じゃあ、俺今すっごく気持ち悪いってこと?」
「違うよ。可愛らしいってこと」
 俺の考えを読んだらしい不二はそう言うと、俺の手からシャボン玉をとり、さっきまでやってたように俺に向かってそれを吹いた。
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