168.罪(周裕)
「裕太が僕を嫌いだってことは知ってる」
「あに、き…。嘘だろ?」
「でも、僕はもう耐えられないんだ。これ以上、自分の気持ちを欺けないっ…」


 夏休みの一週間、オレは帰省していた。その中でも、出来る限り兄貴とは二人きりにならないようにしていた。兄貴も、オレの気持ちを理解ってくれていて、二人きりになりそうなときは何かと用事をつけて出かけてくれていた。そうやって、オレたちは努力してきたんだ。なのに。
 今日は突然母さんが泊りがけで出掛けるといった。それならば、オレか兄貴のどちらかも出掛けるかとも考えたが、姉貴がいるからと、それをしなかった。
 だがそこで油断したのがいけなかったらしい。
 各々が部屋に篭っている間に、姉貴はどこかに出かけてしまったらしかった。飲み物を取りに来たオレがリビングで兄貴とかちあったときに、それを知らせるメールが兄貴の携帯に入った。しかも、姉貴も泊りがけらしい。
 一瞬、妙な空気がオレたちの間を流れた。だが、ここで今までの努力を無駄にするわけにはいかなかった。オレはその為にルドルフに行ったのだから。
 なのに。
「裕太」
 兄貴は顔を伏せてオレを呼ぶと、手を掴んで無理矢理ソファに座らせた。いや、押し倒した。
「なにすんっ…」
 反抗しようとした口を、塞がれる。唇を離した兄貴は、歪んだ笑みを見せていた。


「これ以上、自分の気持ちを欺けないっ…」
 狂気を含んだような眼を見せると、兄貴は深く口付けてきた。抵抗するオレの手を片手で束ね、シャツのボタンを強引に外していく。
「兄貴ッ、今までの努力を無駄に――」
 するつもりか?そう言おうとしたが、オレの言葉は兄貴の眼に止められてしまった。乱暴な手つきとは反対に、兄貴の眼は酷く優しいそれに変わっていた。
 ちゃんと、わかってるから。そう、言われた気がした。
 少し考えてみれば、理解ることだった。オレが兄貴を嫌っているなんて、そのことを兄貴が知っているなんて言葉は嘘っばちで。それは、これからすることの罪を兄貴が全て背負う為のものだったんだ。
 オレは兄貴が好きすぎて、兄貴もきっとオレを好きすぎて。二人きりになればこうなることは予測できた。だから、それを避ける努力をしていた。でも、お互い限界だったんだ。兄貴はそのオレの気持ちをちゃんと見抜いていた。
 だから。オレを犯すという形で、互いの望みを叶えようとしているんだ。罪悪感を全て自分が引き受けるというという形で。
 理解ったよ、兄貴。オレは眼でそう言うと、露骨に拒否をした。兄貴も、それに比例して手つきが乱暴になる。
 別に誰が見ているわけでもないから、こんな演技をしなくてもいいんだけど。これは一種の暗示のようなものなのだと思う。オレが罪の意識を持たないようにする為の、兄貴が全ての罪の意識を被る為の…。
 でも。
「裕太。好きだよ」
 これでいいのか?
「やめろっ……ぁっ」
 それが兄貴の望みだからと言って。
「あにっ…」
 これは、オレたちの罪なのに。
「いれるよ」
 本当にこれでいいのか?
「あぁっ」
 本当に――?
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