171.投げる(不二佐)
「ごめんって言ってるじゃない。ね?機嫌直してよ」
 保健室ベッドにうつ伏せに寝そべっている彼の上に乗ると、その耳元に唇を寄せた。
「ごめんってば」
 耳が弱いのを知ってるから。わざと息を吹きかけるようにして言う。少し肩を竦めるような仕草に、僕は微笑った。
「……不二」
「許してくれる?」
「全ッ然、反省してないだろ。あー、格好悪ぃ」
「そんなことないよ。反省してるって」
「嘘吐くなっ」
 勢いをつけて裏返ると、彼はそのまま僕を組み敷いてきた。優位に立ったとでもいいたげな眼が、僕を見下ろす。
「反省して無いだろ?」
「してるよ。だから抵抗しないんじゃない」
「嘘だ。その顔は、絶対反省してないな。いい気味だとか思ってるんじゃないのか?」
「思ってないって」
「本当のこと言わないと、このままキスするぜ?」
「息が出来なくなるのは、佐伯の方だよ?」
 言うと、僕は彼の頬を掴み、長めのキスをした。いつもなら何ともないのに、案の定、彼がもう止めろと僕の手を叩いてくる。
「はぁっ…はっ…」
 唇を離し、頭を枕に沈める。見上げると、彼は真っ赤な顔で荒い呼吸をしていた。
「やっぱり、不二。反省してないだろ」
「してるよ。さっきのは、ごめんなさいのキス」
 ふふ、と微笑い、彼の鼻に手を伸ばす。
「そろそろ、止まったんじゃない?」
「……ちょっと、待ってろ」
 僕の言葉に、彼はベッドから降りると背を向けてしゃがみ込んだ。止まったかも、と呟く。
 今、外では体育のソフトボールの試合が続いている。僕たちのチームは二人抜けたから、きっと、敵チームの誰かがひとり、チームに入ってくれてると思う。勝つかな。勝てば、3連勝なんだけど。
 試合が始まる前のキャッチボールで。僕たちはフライを取る練習だとか言って、空高くボールを投げ合っていた。それもいつもやってるから大丈夫だと思ったんだけど。偶然、彼の目に直射日光が当たり、そして受け取れなかったボールは鼻に激突。骨は折れなかったものの、鼻血が出た。それで僕たちは今、こうして保健室にいる。本当なら授業に戻っても良いんだけど。保健医も居ないことだしと、結局授業をサボることにした。
「試合、気になる?」
「んー。少しね」
 振り返った彼は、もう鼻に詰め物をしていなかった。ベッドに上がり、僕の上に寝転ぶ。
「じゃあ、戻るかい?俺の鼻血も止まったことだし」
「そうだよね。このまま何の活躍も出来なければ、佐伯、ファンの子たちに格好がつかないもんね」
「……そうさせたのは誰だよ」
「あはは。ごめんごめん」
 微笑いながら言う僕に、やっぱり反省してないな、と彼は溜息混じりに呟いた。もう一度、ごめん、と言い、キスをする。今度は、彼は止めろと腕を叩いてこなかった。唇を離し、見つめ合う。
「ねぇ、どうする?授業戻る?」
「………不二はどうしたい?」
「僕は別にどっちでも。……佐伯のファンが減るのは、僕としては願ったり叶ったりだからね」
「酷いな、不二は」
 苦笑しながら言う。けれど彼は身体を起こそうとせず、僕の頬を挟むと、息が止まりそうになるくらいに長いキスをした。
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