175.なくしたもの(不二乾) |
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「何だか、不二ばかりずるいな」 ベッドに座りシャツの袖に腕を通している僕に、乾は言った。何が?と聴き返すと、背後でパラパラとページの捲れる音。振り返ると、乾は寝転がったままでデータノートを広げていた。 「俺のデータによると、不二は欲しいと思ったものを全て難なく手に入れている」 「……そうでもないよ」 呟く僕に、パタンとノートを閉じると、乾は抱きついてきた。自分に回された手を取り、その甲に唇を落とす。 「この掌で守れる『大切なモノ』の数なんて、そんなにないんだ。きっと、生れた時から決められてる」 僕の掌に用意された『大切なヒト』の席は一つだけだ。それはきっと神か何かが決めたことで。僕が決めたことじゃないから、融通を利かせることは出来ない。 彼は、それなら二番目で良い、と言った。でも僕にはそれは無理だ。確かに、彼は他の友達よりは好きだけれど。それでも、一番でなければ、僕にとってはその他大勢と同じ。 「僕は、キミを手に入れる為に色々なモノをなくした。…捨てたんだ」 彼との友情も。きっと、もう元のようにふざけあうことは出来ないだろう。傍目からはそう見えたとしても。二人の間に感じるぎこちなさは否めない。 「例えば?」 「……それより、乾はどうなの?僕を手に入れるために、何かなくした?」 乾の手を解き、振り返る。悩むような仕草を見せるその体を押し倒すと、キスをした。ふ、と微笑う僕に、乾の顔が赤くなる。 「ねぇ、どうなの?」 「……無くしては、いないな。だからと言って、不二以外に誰か要るというわけではなく。ただ…」 言葉を止めると乾は僕の首に腕を回してきた。抱き寄せるようにして、キスをする。 「不二の言う通り、手にすることが出来る大切なものの数が決まっているとするなら、俺には空白が在ったというだけだ」 「空白?」 「『大切な人』を手にするための空白だよ。俺は不二と出会うまで、そんな感情を抱いたことが無かったからな。あったとしても、相手は機械だからな」 苦笑しながら言うと、乾は視線を僕から外した。それを辿って行くと、乾のパソコンにぶつかった。 「それはそれで、妬けるかも」 乾の視線を遮るように、僕はキスをした。クスクスと微笑いながら、乾の眼鏡を外す。 「でも、そう考えると。乾のほうが狡いよね。何もなくしてはいないんだから」 「……そうかも、しれないな」 ぼんやりとした口調で頷くと、乾は誘うような笑みを僕に見せた。 |
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