「うぜぇっつってんだろ!さっさと部屋戻れよ」 裕太の部屋のドアを開け、裕太からのオヤスミを待っていたら、怒鳴られた。仕方が無いから、もう一度、オヤスミ、と呟いてドアを閉める。 早々に部屋に戻り、電気を消して横になる。耳を澄ますと、荒れた裕太の音が聞こえてきた。引出しの開け閉めも、ガタガタと乱暴だ。 「オヤスミくらい言ってくれてもいいのに」 切ない気持ちを抱えたまま、眼を瞑ると、僕は眠りについた。 青学に入ってからの裕太は、ずっと機嫌が悪い。それは何かと僕と比べられてしまうかららしいけど。そんなの、僕が悪いわけじゃないのだから、当たられてもどうしようもない。僕だって、出来るなら比べるなんてことを止めさせたいのに。 裕太もきっとそれを理解ってるんだ。理解ってるから、余計に僕に当たってしまうのだと思う。中途半端に素直だからな、裕太は。 この問題が解消したら、オヤスミくらいは言ってもらえるようになるのかな? 「うぜぇよ。やることやったんだから、さっさと寝ろよな」 キスをしようとする僕の顔を押し退けると、裕太は背を向けるようにして丸くなってしまった。仕方ないから、後ろから抱き締める。 「ねぇ。ちゃんと言ってよ、オヤスミって」 「………」 「裕太」 「……いいから、寝ろ」 「意地悪」 一年前に独りで眠っていたときには、想像もしなかった現実が、ここに在る。 比べられるという問題は結局は解決していないけれど。裕太はそれを乗り越えられる程に強くなった。そしてそれに伴い、僕たちの仲も元に戻った。いや、違うか。さらに、仲良くなった。こうして、体を重ねるくらいに。でも。 「オヤスミくらい言ってくれてもいいのに」 「うるさい」 「あーあ」 相変わらず、裕太は僕にオヤスミを言ってくれない。これも、一年前には想像もしなかったことだ。
|