179.つま先(不二幸)
「なぁ、不二」
「うん?」
「キスしてくれないか?」
「………いいけど。ここで?」
「ここで」
 微笑いながら頷く俺に、不二は仕方ないな、という風な笑みを見せると、繋いでいない方の手で頬に触れてきた。爪先立ちになり、触れるだけのキスをする。
「ねぇ。自分から言ったんだからさ、少しは僕がキスしやすいように屈んでくれてもいいんじゃない?」
 地に踵をつけ、不満げな声で、しかし満足げな顔で言った。曖昧に微笑って返す俺に、再びキスをしてくる。
「……気が利かないんだから。それとも、甘えん坊なだけ?」
「俺が甘えん坊なのは知っているだろ。まぁ、それだけではないけれど」
 今度こそしっかりと踵をつけ隣に戻った不二に、俺は言った。繋いだ手をしっかりと握り、体を寄せる。
「それだけじゃないって?」
 俺から逃れるように少し前に出ると、不二は顔を覗き込んできた。あまりにも無邪気に訊くから。思わず、顔が赤くなる。
「ん?」
「秘密。不二に言ったら、悪用されるに決まっているからな」
 爪先立ちになってキスをするとき、不二が全身で俺を愛してくれているような気になるから、なんて。
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