180.スウィート(不二切)
「これ、お裾分けっス」
 ベッドに座ると、彼は風呂敷を広げた。出てきたのは、和菓子。きっと、幸村クンの見舞いの品でも貰ってきたのだろう。全く。
「ちょっと、そこで食べないでよ。赤也はすぐ溢すんだから」
 早速包みを開ける彼に、僕は急いで言うと、彼の首根っこを掴んでベッドから引き摺り降ろした。尻餅を付くような形になった彼は、痛みに顔を歪めながらも、菓子を口に放り込んだ。至福の時、と言った言葉がピッタリするような顔をする。
「不二サン、食べないんすか?」
「僕はいいよ」
「そうっスか。じゃ、オレ全部食べちゃいますよ」
 言うと、彼は次々に包みを開けていった。その姿を、頬杖を付いて眺める。
「ほんと、赤也って甘いものが好きだよね」
「駄目っスか?」
「駄目じゃないけど。太るよ?」
「大丈夫っスよ。その分沢山運動しますから。ね、不二サン」
 含んだような言い方をすると、彼は僕を見てニッと微笑った。期待に満ちたその顔に、溜息を吐く。
「ま、いいけどね」
「それより、不二サンこそもっと肉付けた方が良いんじゃないっすか?心配っすよ。そのうち、オレ持ち上げることが出来なくなっちゃうんじゃないかって」
 指を舐めながら言う。見ると、箱の中は空になっていた。蓋を閉じ、ゴミ箱に捨てに行く彼の姿を見て、不図、思った。
「僕が肉をつけるよりもさ、赤也がもうちょっと痩せた方が良いんじゃない?その方が、僕としても助かるし」
 ベッドに横になった彼に圧し掛かると、僕は言った。彼の手が伸びてきて、唇が重なる。そのキスは、いつもの事ながら、吐き気がするくらい甘かった。
「やっぱり、甘いもの控えなよ。太るし。それに、病気にもなっちゃうよ?」
「えー…」
 心配して言ってるのに。彼は不満そうな顔をすると僕から手を放した。しょうがないな。溜息を吐く。
「ねぇ。少し、太ったでしょ?」
「!」
 身体の線を指先でなぞりながら言う僕に、彼は過剰なくらいの反応を示した。やっぱりね。さっきゴミを捨てる為に立ち上がった姿が、重々しかったんだよね。それに、ここの所、肩凝りやすいし。大丈夫、という彼の言葉は嘘だったということだ。
「ふ、太ってないっスよ。何言ってんすか」
 アレだけの反応を示しておきながらそれでも嘘を吐こうとする彼に、僕はまた溜息を吐くと身体を起こした。手を引き、彼の身体も起こす。
「ねぇ、赤也」
「……なん、スか?」
「甘いモノを食べるのと、僕と甘い時間を過ごすの。どっちか選んで」
「………それだったら、そりゃあ、勿論、不二サンとの方がいいっスけど」
 もごもごと、歯切れの悪い声で言う。それが少し頭に来たけど。甘いモノを選ばないだけ良かったと思うべきなんだろうな。
「じゃあ、決まり。赤也は今日から甘いものは控えること。約束破ったら、どうなるかわかるよね?」
 彼の気が変わらないうちに。僕はピンと立てた人差し指を彼の前に出すと、言った。渋々、と言った感じで、彼が頷く。
「そんな顔しないで」
 彼の肩を掴み唇を重ねると、僕はその身体をベッドに押し付けた。口の中に残っている甘さを全て取り除くように、深く舌を絡める。
「甘いモノは食べれないけど、それ以上の甘い時間をあげるからさ」
 言うと、それを有言実行に移すべく、僕はまた深いキスをした。
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