181.虜囚(不二幸)
 檻なんて、何処にもない。繋ぎとめる鎖だってない。
 それなのに。逃げられないのは、何故?

「幸村」
 窓を開け放ち振り返ると、俺の名を呼んだ。いい所だったのだが、どうしてもその声には逆らえず、顔を上げてしまう。視線がぶつかり、俺は蒼い眼に捕らえられてしまった。いけない。眼を離さなければと思うが、上手く行かない。
「まだ、読み終わらない?」
「……見ればわかるだろ」
 穏やかな声で言う不二が悔しくて、俺は不機嫌な声で言うと本を揚げて見せた。そう、と相変わらず穏やかな声で頷く。
 暫く見詰め合っていると、突然に風が吹いた。不二の眼が、一瞬俺ではないものを移す。その隙に、俺は本に視線を戻した。
 深呼吸をし、落ち着け、と言い聞かせる。
 不二の視線を感じる。優しくて、穏やかな視線。なのに、いや、寧ろその所為で、俺は本に集中できなくなってしまった。同じ行を、何度も読み返す。それすらも頭に入ってこない。
 駄目だ。溜息を吐き、本を閉じる。
「読み終わったの?」
「もういい」
 クスクスと微笑いながら訊いてくる不二に、俺は顔を上げると不貞腐れたように言った。それでも、不二の笑顔は変わらない。
「そう。じゃあ…」
 俺の隣に座り、指を絡ませてくる。蒼い眼を見つめていると、唇が触れた。
 捕まってしまった。その眼に。そう思った。
 けれど、それは違った。
「幸村?」
「何でもない」
 覗きこんでくる不二に、首を振る。自由な方の手で不二の頬に触れると、自分からキスをした。
 捕まってしまったわけではない。初めから捕らえられていた。自ら望んで。
「不二が好きだ」
「うん、僕も。幸村が好きだよ」

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