183.仮眠30分(不二ジロ)
「つーわけで。よろしくー」
「はいはい」
 頷いて頭を撫でると、彼は安心したのか、あっさりと眠りに入ってしまった。彼が起きた時に足が痺れないように、膝に乗っている頭の位置を調節する。
「さて、と」
 時計はアナログだから。携帯で30分後にアラームをセットすると、持ってきていた本を取り出した。彼の顔に触れないように気をつけながら、本を開く。
「何だ、ジローのやつ。不二が来てるのに居眠りか?」
 1つの章が終わる頃、僕の前に影が重なった。顔を上げる。
「……跡部」
 僕と眼が合うと、跡部は眼をそらせて舌打ちをした。僕の膝で眠っている彼をじっと見つめる。
「おい、ジロー。起き…」
「ああ。いいんだよ」
 彼を起こそうと手を伸ばすから。僕は触れる前にと跡部の手をとった。不満そうに、跡部が僕を見つめる。
「いいんだ。慈郎クンはこの後僕とデートだから。途中で眠くならないように、今寝ておく必要があるんだ」
「だったらお前が来る前に寝ときゃいいだろうが」
「膝枕。好きなんだってさ。僕としては、足が痺れちゃうからあまり好きじゃないんだけど。でも、なんていうか、この寝顔を見ちゃうとね」
 苦笑し、彼の顔を覗き込む。頬をつつくと、何故か微笑った。
「足の痺れより、ジローの寝顔というわけか」
「まぁ、そんな所だね」
 跡部を見ること無く、答える。と、頭上から舌打ちが聞こえた。
「じゃあ俺様は行くとするか。せっかくの二人きりを邪魔したら悪いからな」
「……うん。ありがと」
 顔を上げずに呟く。今度は溜息が聞こえてきた。
「ジローに言っておけ。もし不二を傷付けることがあったら、俺様が許さねぇ、とな」
「……うん」
 頷いて、顔を上げる。けれど、跡部はもう背を向けて歩き出していた。ごめん、と声には出さず呟き、彼に視線を戻す。すると、僕の隣で携帯のアラームが鳴った。それを止め、彼の頭を抱き寄せる。
「慈郎。起きて」
「……ん。ふ、じ?」
「お目覚めですか、お姫様」
 唇を離し微笑う僕に、彼はニッと微笑うと大きく頷いた。僕の首に腕を絡ませ、体を起こす。
「やっぱ、不二の膝が一番だ」
「そう?なら良かった。じゃあ、行こうか」
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