184.プレイヤー(不二切)
「へぇ、上手いもんスね」
「姉さんと一緒に習ってたからね」
 まだペダルから足を離さないうちに、彼が後ろから抱き締めてきた。その腕を解き、振り返る。
「でも、赤也も弾けるんでしょ?」
「オレも姉ちゃんと一緒に習ってたっスけど、実になる前に辞めちゃったっスからね」
 ポーン、と人差し指で鍵盤を叩く。あまり気にしてなかったけど、こうして見ると彼の指はそれなりにごつかった。何となく、ドキッとする。
「何、見てんスか」
「……いや。赤也の指って、結構オトコのヒトなんだなって」
「なんスか、それ」
「好きだよ。赤也の指」
 鍵盤に乗ったままの彼の手を取り、その指先にキスをする。
「今更気付いたよ。格好良いね」
 指を開かせるように、一本ずつ丁寧に舐める。と、空いている彼の手が僕の頭を引き寄せた。そのまま、口づけを交わす。
「遅いっすよ。オレの魅力に気づくの」
「可愛い、とは思ってるんだけどね。意外。こんな所に格好良い赤也がいたなんて」
 クスクスと微笑いながらピアノを閉じ、ソファに座る。手招きするよりも早く、彼が僕の隣に座った。また、キスを交わす。
「そう言う不二サンの指は綺麗っスよね。細長くて、白い。女の人みたいっス」
 僕の手をとると、さっき僕がやったように彼も指一本一本に舌を這わせた。
「細すぎて、不満?」
 クスクスと微笑いながら訊く僕に、まさか、と彼が首を振る。
「太いのが欲しい時は、指じゃなくて別のものを強請りますよ。それに、そんな綺麗な指がオレを犯してるかと思うと、それだけで充分感じられますしね」
「……なかなか、面白いコトを言うね」
「不二サンがピアノを弾いてるの見て、余計にそう思うようになりましたよ。綺麗でしたよ。ピアノ弾いてるときの不二サンの指」
 彼の唾液でまだ湿っている僕の指に、指を絡ませる。強請るような眼で僕を見るから。その体を押し倒し、自分の下に組み敷いた。
「じゃあ、今の指はそんなに綺麗じゃない?」
 服の上から、体のラインをなぞるようにして触れる。見つめると、彼は首を横に振った。
「充分綺麗っスよ。オレを犯してるときの不二サンの指が一番綺麗で一番好き」
「そう。それは良かった」
 少し顔を紅潮させた彼にクスリと微笑うと、僕は鍵盤に触れるような優しさで彼に触れた。
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