185.フリー(不二佐)
「不二は、俺が何処で何をしているのか気にならないのかい?」
「うん」
「…………」
 あっさりと頷かれ、俺は言葉を無くしてしまった。顔を覗き込んできた不二が、変な顔だよ、と呟きキスをする。
「なぁ不二」
「うん?」
「俺たち、恋人同士なんだよな?」
「うん」
 再び、即答。それは嬉しいけど、なんだか話を訊いていないんじゃないかという気がしてくる。
「じゃあ、何で俺が何処で何をしているか気にならないんだい?」
「そこまでの愛情が無いから」
「…………」
「なーんて。冗談だよ」
 クスリと微笑い、またキスをしてくる。強く抱き締められて。触れる体温は温かいのに。さっきの不二の言葉が冗談に聞こえなくて、なんだか冷たく感じる。
「佐伯?」
「不二が言うと、冗談に通じないからさ。ちょっと不安になっただけだよ」
「あはは。ごめんごめん。佐伯、愛してるよーっ」
 人がシリアスになってるのに。不二は軽い口調で言うと、触れるだけのキスを何度もしてきた。どうにかしてその軽さを終わらせたくて。俺は溜息をつくと、その額を押しやった。
「じゃあなんで、気にならないんだ?」
「知りたい?」
「教えてくれないと、俺はこの先ずっと不安でいなきゃならなくなる」
「知ったら余計に不安になるかもよ?」
「………それでも、知りたいさ。それが事実なら仕方ないと思えるし」
「そう。じゃあ…」
 言うと、不二は深く口付けてきた。強く俺を抱き締め、耳元に唇を寄せる。
「君が束縛を望むからだよ」
「……え?」
 不二の言葉に妙な声を出してしまう。間抜けな顔をしている俺を見つめると、不二は悪戯っぽく微笑った。
「佐伯がね、束縛を望むから。だから僕は君を束縛しないの。分かった?」
「……ちょっと、分かり辛いんだけど」
「仕方ないなぁ」
 呟くと、不二は俺の上に跨った。クスクス微笑いながら、自分がつけた痕を辿るように指先を走らせる。
「束縛ってさ、どこか安心感があるでしょ?特にそれを望んでる人の場合。ああ、俺ってもの凄く不二に愛されてるんだなぁ、って。そうじゃない?」
「…………」
「でも、こうやって僕が佐伯をフリーにしておけば、君は僕のことを考えるでしょ。どうしたら僕が束縛してくれるのかとか、どうして自分を束縛してくれないのかとかさ」
「っ」
 ずっと撫でるだけだった不二の指が、目的を持ち始める。俺は声を殺すために、不二に深く口付けた。だげど、それもあまり効果がなく。俺はあっさりと声を上げてしまった。
「ねぇ、知ってる?佐伯はもう、束縛されてるんだよ。自分からね。それと、僕も佐伯になら、束縛されたいしね」
 だから、僕は君をフリーにしておくんだ。
 妖しさを含んだ声色で囁くと、不二は微笑った。指が、硬度を増し始めている俺のそこに絡みつく。
「っ。随分、歪んだ愛情だな」
「一直線じゃ、佐伯を縛れないからね」
 クスクスと微笑うと、不二は心だけじゃなく体まで俺を縛り始めた。
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