187.影(不二幸)
「駄目だ。どんなに不二が俺を照らしても。俺の心にある暗い影は消せないから」
 僕の胸に額を寄せ、強く抱きしめると彼は呟いた。
 全く。内心、溜息を吐く。
 僕もこれでいて結構マイナス思考な方なんだけど。彼はその上を行く。だから、どうしても彼と一緒にいると僕はプラス思考になってしまう。まぁ、それは別にいいんだけど。
「僕は君を照らせるほど、立派な人じゃないよ」
「それでも。俺からすれば不二は眩しいさ。だから余計、俺が暗く映る」
「…………」
 まぁ、確かに。影は照らし出す光が強ければ強いほど、黒くはっきりと映るけど。なんだかな。多分、美化しすぎてるんだ。僕のことを。
「ちょっと、辛いな」
「何が?」
「不二の傍にいることが。自分の闇を嫌というほど見せつけられる感じがするから」
 辛い。呟きながらも、彼は更に強く僕を抱き締めてきた。背に爪を立てられ、思わず顔を歪める。
「それでも離れる気はないんでしょ?」
「そんな勇気は無いからな。だけど、このままだと自分の闇に潰されてしまいそうだ」
 顔を上げ、潤んだ目で僕を見つめる。僕は微笑い返すと、彼の額にキスをした。体を丸め、唇にも、キスをする。
「大丈夫だよ」
 光がある限り、影は消えないけど。でも、見えなくすることは出来る。
「不二?」
 僕の、眼の色が変わったことに気付いたのだろう。僕を見る彼の眼は、少しだけ怯えていた。
 クスリと微笑い、彼の上に圧し掛かる。彼の首を軽く絞めると、荒々しいキスをした。
「幸村が自分の影を見ないですむように、僕の影で凡てを漆黒に変えてあげるよ」
「不二…やめっ…」
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