189.誰もいない(周裕)
「母さんも姉さんも。行ったよ」
 オレの部屋に入ってくるなり、兄貴は言った。ベッドに座り、オレを手招く。
「明日まで、誰も居ないよ。僕と裕太の二人きりだ」
 二人きり。その響きに、オレは頷くと兄貴の隣に座った。見つめ合い、口づけを交わす。触れるだけのものを繰り返していると、どちらからともなく笑いが込み上げて来た。クスクスと微笑いながら、ベッドに倒れる。
「久しぶりだね、二人っきりなんて」
「一体、どんな手を使ったんだ?」
 オレの身体に跨り見下ろす兄貴に言った。さぁね、と兄貴が眼を細めて呟く。
「つぅか、そんな芸当できるんだったら、オレが帰ってくるときは毎回追い出せってんだよ」
「そんな無茶言わないでよ。大変なんだよ?母さんや姉さんも裕太に会いたがってるんだからさ」
「そりゃ、理解るけどよ。だけど、三ヶ月ぶりだぜ?」
「うん。だから、それを一晩で埋めるんじゃない」
 言って優しく微笑うと、兄貴はオレに深く口付けてきた。唇を重ねたままで、オレの服を脱がしていく。
 するのは、実に三ヶ月ぶりだ。あれから毎月帰ってきてるってのに、兄貴はなかなかしてくれなかった。まぁ、家族が寝てる中で出来るわけないから、仕方ないんだけど。
 オレたちの関係を理解してくれる奴なんて、誰もいないんだ。
 でも別に、それを淋しいとは思わない。寧ろ――。
「裕太がこっちで暮らすようになれば、今よりは沢山出来ると思うんだけどな。あとは、駄目元でカミングアウトしてみるとか」
 唇を離すと、兄貴は言った。オレの肌に、熱を宿すような手つきで触れてくる。
「オレがこっちで暮らすことは考えてやってもいいけど。カミングアウトは嫌だぜ」
「……そっか。そうだね。理解してくれればいいけど。そうじゃなかったら、最悪の場合、もう二度と二人きりにはなれないかもしれないしね」
「そうじゃねぇよ」
 呟いて、苦笑する兄貴の頬を両手で挟むと、キスをした。
「オレたちの関係を理解してくれる奴なんて必要ねぇよ。オレと兄貴だけでいい。二人きりで充分だ」
 オレたちの世界には、オレと兄貴以外、誰もいなくていい。誰かに干渉されるくらいなら、会えない淋しさくらいどうってことねぇ。
「そう、だね。僕たちの関係だ。僕と裕太の二人きりで充分だよね」
 頷いてオレしか知らない優しい笑みを見せると、兄貴は三ヶ月の空白を埋めるべく、再び手を動かし始めた。
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