204.ホラー(不二真)
「っ」
「…っ」
 彼に遅れること約一秒。僕は別の意味で息を詰まらせた。
「……真田」
「な、んだっ。話し掛けるな」
「腕、痛い」
「………」
 駄目だ。夢中になってるよ。
 僕は溜息をつくと、腕に食い込んだ彼の手を引っぺがした。変わりに、指を絡めるようにして手を繋いでやる。これで、少しは――。
「痛たたたっ」
「あ。す、すまん」
 少し穏やかな場面に変わったところで、彼は慌てて僕から手を放した。僕の手の甲には、暗闇でも分かるほどくっきりとした爪痕。
 忘れてた。彼はあれでいて力が強いんだった。
「もういいよ。僕はこっちで見てるから」
 溜息混じりに言うと、もう腕を捕まれないように距離を置いた。のに。
「……真田?」
「まだ、これからだ」
 伸ばした腕で僕のシャツをギュッと掴むと、体を寄せてきた。怖いのか、目線はテレビに釘付けのままだ。
「全く。怖いなら、何でホラービデオ(こんなもの)借りてきたの?」
「怖くなどない。面白いから観ているのだ」
「あ、そう」
 場面が少し暗くなっただけで。伸びきるんじゃないかと思うくらいに、彼は僕のシャツを引っ張った。
 それにしても。意外だな、こんな笑っちゃうような映画にいちいち過剰なくらいの反応をしてるだなんて。しかも、あの真田が。
 絶叫マシーンを好んで乗る人たちと同じ心理なのだろう。怖いもの見たさというか、そのゾクゾク感がたまらないっていう感じ。
 それはスリルを求める僕と通じる所もあるから、分からなくもないけど。
「ひっ」
 僕はこんなに情けなくは無い。寧ろ不敵な笑みを浮かべてるから怖いとすら言われる。
 あー。もしかして、真田が僕を好きになったのって、そのときの顔がホラーだったから?
「ねぇ、真田」
「なんだっ」
「……いや、いいよ」
 そんなわけない、か。僕が怖いんだったら、こんな暗く締め切った部屋に二人きりでホラーを見るわけ無いし。しかも、こんなに僕に寄り添った状態で。
 それにしても、腕、痛いなぁ。
「まぁ、いいか」
 彼の方から寄り添ってくるなんて滅多に無いし。
「ぅお」
 こんな情けない姿も見れたことだし。いや、ここまで来るとちょっと引いちゃうけどさ。
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