205.舌(不二リョ)
「んっ…めた」
 口内に侵入してくる冷たさに、俺は思わず舌を引っ込めた。けれど、それをいいことに先輩は容赦なく氷を押し進めてくるから。俺も舌を使うと、その氷を押し戻した。途端、先輩の唇が離れる。
「ね。偶にはこういうのもいいでしょう。涼しくて」
 ガリ、と氷を噛み砕き口の中を空にすると、先輩は微笑った。コップの中に入れられた氷をまた一つ口に放り、口付けてくる。

 クーラーは部屋にあるのに、なかなか点けてくれなくて。俺は先輩の部屋に来てからずっと暑い暑いと唸っていた。ちょっと待ってて、という言葉を残し部屋を出て行った先輩が持ってきたのは、コップに山盛りの氷だった。
 飲み物とか持ってきません、普通。そう言った俺に、先輩は不敵に微笑うと、氷を咥え、オレにキスをしてきた。
「はっ…」
 互いの口を何度か行き来した氷は、角が取れ、丸く小さくなっていた。氷と一緒に直接その舌に触れられるほどに。
「ぁ」
 口内で水に戻ったそれが、互いの唾液と混ざり喉元を伝う。少しねっとりとした人肌の温度の液体は、まるで先輩の舌を思わせた。思わず、身体が反応してしまう。
「ね、いつもと違うと、キスだけで随分感じるでしょう?」
 そんな俺を見抜いた先輩が、クスリと微笑う。それにちょっとムカついたけど。いつの間にか先輩のシャツを掴んでいた手を、放すことは出来なかった。手を放せば膝から崩れてしまうだろうし。それに何より、このままキスだけで終わらせたくなかった。
「……じゃあ、キス以外のこともしてみたらどうなるんスかね」
「リョー、マ?」
「試してみたく、なりません?」
 崩れないように右手で先輩のシャツをしっかりと掴んで。左手で先輩の持っているコップに入ってる氷を一つ、掴んだ。それを先輩の口に押し込む。
「氷はまだまだあるんだし」
 冷たく濡れた手で先輩の首筋をなぞり、ニッと微笑ってみせる。
「……そうだね」
 シャツのボタンに触れた俺の手を取り微笑うと、先輩は口に入った氷を押し付けるようにして俺の首筋にキスをした。

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