207.片方だけ(不二橘&切原)※バイオレンス注意
 鎖で繋がれた。
「どうするつもりだ?」
「君へのプレゼントだよ」
 俺の左手にかけた枷に唇を落とすと、不二はは立ち上がった。
 クローゼットを開ける。
「う……」
「……切原っ」
 呻き声を上げて倒れ出てきた切原は、俺の声に反応し睨みつけたてきた。そんな切原を、不二が恐ろしく冷たい眼で見下ろしている。
「まだ、そんな気力あったんだ」
 溜息混じりに呟くと、不二は切原の腹を蹴り上げた。その勢いで仰向けになった切原の胸に、足を乗せる。
「不二…何をしたんだ?」
「別に」
 別に、ではないだろう。言おうとしたが、言えなかった。クスクスと微笑いながら切原を見下ろしている不二の眼は、今までに見たことの無いほどの冷たい色をしていた。
「ほら、切原。橘に話があるんだろ?」
「なに、も…っスよ」
 恐らく、不二の足に相当の負荷がかかっているのだろう。切原の声は酷く掠れていた。いや、もしかしたら不二に暴行されていた所為なのかもしれない。服を着ているため見ることは出来ないが、縛られてもいないのに抵抗すら出来ないその様子からみると、不二に痛めつけられていると言うことくらいは想像がつく。
「いけない子だネ。もっと素直にならなきゃ駄目だよ?」
 クスクスと不気味な笑い声を上げると、不二は切原から足を退かした。その横にしゃがみ、切原をうつ伏せにする。
「不二、やめっ――」
 嫌な予感がして俺が声を荒げるよりも先に、不二は切原の頭を掴むと、そのまま床に叩きつけた。ゴツ、と鈍い音がする。
「がっ」
 不二がその髪を引き顔を上げさせられた切原の鼻からは、血が出ていた。その無惨な姿に、思わず目を伏せる。
「駄目だよ、橘。ちゃんと見ておかないと」
 不二が切原から手を放したのだろうか。その声と共に再び、ゴツ、という音が聴こえた。そして、微かな呻き声も。
「橘。ちゃんと見て」
 ぞっとするほどの優しい手が、俺の頬に触れた。恐る恐る眼を開けると、優しい笑みを浮かべている不二がいた。唇が、触れる。
「君に罰を与えたいわけじゃないんだ。ただ、ちゃんと見て欲しいだけ。その為の、鎖なんだから」
 でも。君がそれを拒むようなら、右手も繋ぐよ?一瞬冷たい眼をして言うと、不二はまた、優しく微笑った。もう一度、今度は触れるだけではないキスをして、俺から離れる。
「本当は、顔に傷なんてつけたくないんだ。後々面倒なことになりかねないからね。でも、君が余りにも駄々をこねるようなら、それも仕方ないかなと思ってる」
 俺に背を向けるようにしてしゃがみ込んだ為、不二がどんな顔をしているのか見ることは出来なかったが、どんな眼をしているか想像することは出来た。恐らくは、さっき俺に一瞬だけ見せた、凍てつくような眼。
「ひっ」
 いや、もしかしたらそれ以上のものかもしれない。そうでなければ、あの切原が、不二を見ただけで恐怖の声を上げるなどとは考えられない。
「分かっているのかい?君はまだ、僕の怒りの入り口にいるんだ。これ以上僕を怒らせるようなら――」
「不二、それ以上は」
「橘は黙ってて」
「……っ」
「これ以上、僕を怒らせるようなら。君を殺しても構わないんだよ?」
 どうする?呟くと、不二は切原を仰向けにさせた。その上に跨り、首に手をかける。
 やめろ、と良いたかったが、横からでも分かるその眼に、俺は何も言えなくなっていた。だからといって、眼をそらすことも出来ない。
「がっ、は…」
「ねぇ、知ってる?頚動脈を絞めれば、七秒で落ちるけど。でもね、ちょっとずらした所を絞めると気を失うまで地獄の苦しみを味わえるんだ。どう?苦しいでしょう」
「ぐぁ…」
 不二の腕に血管と筋がはっきりと浮かび上がる。見かけに寄らず力のある不二が、それ程までに本気になったら。下手をしたら、本当に死にかねない。
「った」
 切原もそれに気づいたのだろう。震える手で不二の腕を叩くと、口をパクパクさせて何かを言っているようだった。
「初めから素直に頷いておけば良かったんだよ」
 口元に笑みを浮かべて言うと、不二は手を放した。
「げほっ、げほっ……っは。はぁっ。はぁっ」
 急激に与えられた酸素に、切原は激しく咽返っていた。俺の、安堵の溜息を掻き消すほどに。
「切原。じゃあ、橘の所へ行こうか」
 切原の呼吸が整ったころに、不二は立ち上がると、優しい声で言った。それが余計に恐怖を思わせたのだろう。切原は急いで立ち上がると、おぼつかない足取りで俺の前まで来た。その場に、座る。
「……不二?」
「言ったでしょう。プレゼントだって」
 ふ、と微笑うと、不二は俺の後ろにまわった。俺の顎を掴み、切原の方を向けさせる。
「切原」
 俺の耳に息を吹きかけるようにして言う。切原は、ひ、とまた小さく声を漏らすと、床に両手をついた。
「……すみませんでしたっ」
 額まで床に擦り付けて、頭を下げる。
「ふふ。これに懲りたら、もう二度と僕のモノたちに手出ししないように。君に二度はないんだからね」
「がっ」
 いつの間に移動したのだろうか。不二は冷たく言い放つと、床から離そうとした切原の頭を強く踏みつけた。ジリジリと、踏みにじる。
「ね、橘。満足した?」
 満足げに微笑う不二に、俺は何もいえなかった。
 不二のプレゼントとは、ただ、切原に謝らせることだったらしい。それを切原が拒んだから、こんなことに…。
「それとも、まだ足りない?」
 唖然として何もいえないでいる俺に、不二は少し顔を困らせると、切原を踏みつけている足に力を入れた。
 息が、できていないのかもしれない。切原は呻くと、しきりに床を叩いていた。
「い、いいや。充分だ。ありがとう」
「うん」
 慌てて礼を言う俺に、不二は嬉しそうに頷くと、切原から足を放した。体を横たえた切原が、荒い呼吸をする。
「じゃあ、これはもう要らないね」
 すっかり忘れていた鎖を外すと、不二はそれを切原の腕に繋げた。何処にそんな力があるのか、俺を抱きかかえ、ベッドへと運ぶ。
「何をっ」
「どうも、興奮が収まらないんだ」
 俺の上に圧し掛かり、乱暴にシャツのボタンを外すと、不二はそこに唇を落とした。慌てて、不二の額を押しやる。
「待て、不二。切原が――」
「それとも、橘は切原が死ぬところを見たいの?」
「…………」
「どうせなんだ。見せつけてあげようよ。橘は僕のものなんだってさ」
「……っ」
 優しいものでも、凍てつくものでもない、初めて見る妖しげな色の眼をすると、不二は愉しげに微笑った。
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