209.コラッ!(不二切)
 控え室のモニター。そこにいる越前とケビンの試合を、オレはじっと見つめていた。
 本来なら、あそこで試合をしていたのはオレだ。初めから選ばれなかったのならまだしも、棄権というカタチが、余計にオレを苛立たせる。
「くそっ」
 肩にかかっていたジャージを床にたたきつけると、オレはベンチに横になった。と。カッチャ、と小さな音が背後から聴こえた。
「赤也」
「不二サンっ」
 続いて聴こえて来た声に振り返る。体を起こしたオレと眼を合わせると、不二サンは優しく微笑った。オレの前に、立つ。
「不二サン、オレ――」
「コラッ!」
 呟くオレの声を遮るように不二サンは声を上げると、オレの頭にゲンコツを落とした。
「いってー。何するんス…」
 頭を抑えながら顔を上げると、そこには優しい笑顔はなく、いつかに対峙した時に見せた厳しい眼差しがあった。
 不二サンの手が伸び、オレの肩を強く掴む。
「ぐぁっ」
「全く。莫迦なんだから」
 痛みに顔を歪めるオレを見て溜息をつくと、不二サンはいつもの笑顔に戻った。床に落とされたままのジャージを拾い、埃を掃う。それをオレの肩にかけると、オレの右隣に座った。
「何であんな無茶したの」
 オレの右手に自分の左手を重ねると、不二サンは覗き込むようにして訊いてきた。その優しい眼を見るのが嫌で、オレは顔を背けて俯いた。
「……どうしても、勝ちたかったんです。不二サンに、変わったオレの姿を、ちゃんと見て欲しくて」
 それなのに。負けるどころか、棄権だなんてっ。
 情けなくて、悔しくて。気がつくと、オレは不二サンの手に爪を立て、強く握っていた。慌てて、手を離す。案の定、その綺麗な手の甲には、オレの爪の痕がついていた。
「僕も、見くびられたもんだね」
 溜息混じりの声。折角手を放したのに、不二サンはオレの手を追うと、再び指を絡めた。オレがしたのとは逆の、酷く優しいそれ。
「赤也がどれだけ頑張ったか、どんな風に変わったかくらい、ちゃんと分かってるから。だから、ね。もうあんな無茶はしないで」
 顔を上げたオレに、不二サンは優しく微笑うとオレの肩に唇を落とした。
「早く良くなるように、オマジナイだよ」
 そう言ってオレの頬に触れると、不二サンはオレの唇にもキスをした。
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