210.生意気(不二切)
 目の前に殺気に近い気配を感じ、オレは目を醒ました。
「二年の分際で、青学の部長(僕の手塚)を潰すだなんて随分と生意気な口をきくんだね」
 さっきまでオレと運転手しかいなかったのに。オレはどうやらまた眠っちまってたらしい。
「……不二、周助」
 後部座席に座っているオレを仁王立ちで見つめているそいつは、オレに名前を呼ばれると、ふ、と笑った。
 それにしても。バスの速度が若干遅くなってねぇか?
 気になって、そいつの肩越しにバックミラーを覗くと、運転手が怯えたような顔でオレらのことを窺っていた。
 何かしたのか?
「切原…くん、だったよね。今、君の所為で皆グラウンドを走らされてるんだ。そんな中、バスで熟睡かい?」
「丁度いいじゃないっスか。体力がついて。ま、幾ら走りこみをしたところで、オレたち立海大附属には勝てっこないっスけどね」
「さぁ、どうだろうね」
 呟いて微笑うと、不二周助はオレの肩に手を乗せてきた。そのまま、信じられないくらいの力で、肩を握る。
「っ」
「このまま、君の肩を潰してやってもいいんだけど」
「ひっ…」
 すっと不二周助の眼が開く。その鋭さに、オレは初めて恐怖というモノを感じた。抵抗する気すら、起きてこない。
「それじゃあ、不本意でしょう。君の一番得意なテニスで、潰してあげるよ」
 不二周助の手が、静かにオレから離れる。恐怖で荒い息を吐くオレに、クスリと微笑う。
「関東大会で待ってるよ」
 恐らくこっちが普段の声なのだろう。さっきよりも高い声で言うと、不二周助はオレに背を向けた。バスの乗降口に立つ。
「じゃあね」
 不二周助の声を合図に、静かにバスが止まり乗降口が開く。振り向き、一度だけ手を振ると、呆然としているオレをそのままに不二周助はバスから降りていってしまった。
 逃げるように走り出すバス。
「………おもしれぇ」
 不意に見た、ガラスに移った自分の姿。そこには、必死で恐怖からくる震えを武者震いに変えようとしている自分があった。
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