212.新しい仲間(不二リョ)
「……越前」
 竜崎先生の後について病院に行こうとする俺を引きとめる声。それに違和感を抱きながら、俺は振り返った。
「なんスか、不二先輩」
「越前」
 俺と目が合うと、不二先輩は目を細めながらもう一度俺の名を呼んだ。
「――あ」
「ん?」
「いや、何でもないっス」
 理解った。俺が感じた違和の正体。呼び方が、違うんだ。いつもは"越前くん"って呼ぶのに。
「僕のほうは、何でも在るんだけどな」
 俯いた俺の肩を優しく叩くと、不二先輩は顔を上げた俺にまた微笑った。何でか分からないけど、顔が赤くなる。
「ありがとう」
「?」
「そんなに傷だらけになりながらも勝ってくれて、ありがとう」
 肩に置いていた手で俺の額にかかっている髪を掻き揚げると、不二先輩は絆創膏に触れた。痛みは感じなかったが、反射的に声を上げてしまった。
「あ。ごめん。痛かった?」
「別に」
「強がっちゃって」
 溜息混じりに言って上げたままになっていた手をポケットにしまうと、不二先輩はまた微笑った。
「それと。ごめんね」
「何?」
「僕たちが棄権したとき。後を託した人たちの中に、君を入れてなかったんだ。別に越前の強さを疑ってたわけじゃないけど。まだ信頼しきれてなかったみたい。でも、これからは違うから」
「……言ってることが、良くわからないんスけど」
「君を仲間として認めるってこと」
 言うと、先輩はポケットにしまったばかりの手を俺に差し伸べた。訳が理解らず見つめていると、俺の右手を取り、強引に握手をさせられた。
「改めて、よろしくね。越前」
「………っス」
 向けられた笑顔と伝わってくる体温に、俺は再び顔を赤くしながらも、それらを胸に留めるように手を強く握り返した。
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