213.アクシデント(不二真)
「6-2…?どうしたの?」
 振り上げていたラケットを下ろすと、不二は言った。
「し、仕方ないだろう」
 コホン、と咳払いをし、弾まずに遥か後方へ飛んで行ったボールを拾う。
「無敗の皇帝も、引退すればただのヒト、か」
「…………違う。これはアクシデントだ」
「何がアクシデントなの?」
 不二のボールを手渡そうとしたその手を引かれ、唇を重ねられた。屋外での行為は、はじめは嫌だったが今では慣れてしまったため、特になんとも思わない。
「つまんない」
 俺が無反応だったためか、不二は呟くと、荒々しくボールを受け取った。
「で、何?アクシデントって」
「ああ」
 不満そうな顔で言う不二に、俺は頷くとそのシャツを引っ張った。
「これだ」
「うん?」
「幾ら暑いからといって、半袖に短パン、それに加えて腹を見せられたら、集中出来るものも出来なくなって当然だ」
「…………ふっ」
 言い放った俺に、不二は少しの間の後で、壊れたように腹を抱えて笑った。それは一人では立っていられないほど酷く、俺の腕に体重を預けるようにして寄りかかってきた。
「何がそんなに可笑しいんだ?」
「いやぁ、真田って、本当に正直者なんだね。好きだよ、そう言うところ」
 笑いすぎて滲んだ涙を拭くと、不二は呼吸を整え、俺から離れた。進行方向を塞ぐように、前に回りこむ。
「不二?」
「次からは君とちゃんとした勝負がしたいからさ。もう僕の腹を見てもドキドキしないように。今日は飽きるほどに見せてあげるよ」
 ふふ、と不敵に微笑って見せると、不二は俺の手を取り家路を急いだ。
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送