216.世界樹(不二幸)
『the giving tree』
 1本の林檎の樹と1人の少年の、生涯に渡る交流の物語。

「俺は、この少年が嫌いだ」
 僕の話を訊いた彼は、真っ先にそう答えた。
「頼み事をするときにだけ林檎の樹に縋るなんて。それでは林檎の樹が可哀相だ」
 少々憤慨した様子で、僕を睨みつける。僕に怒っても、仕方がないのに。
「僕は非道いとは思わないけどな」
 彼の手に指を絡め、呟く。
「どうして!」
 納得のいかないかれは、当然声を荒立てた。更に強く睨みつけるその視線を笑顔で受け止め、紅潮した頬に口づけをする。
「きっと、その少年にとって林檎の樹はユグドラシルみたいな存在だったんじゃないかな」
「……ユグ…?」
「ユグドラシル。前に北欧神話の本かしたでしょう。九つの世界を支える巨樹のことだよ」
「あー……ん?」
 ユグドラシルについては頷きながらも、それと林檎の樹がイコールで結ばれなかったらしく、彼は首を傾げた。その様が可愛くて、思わず微笑う。
「困ったときに願い事をしに林檎の樹の元へ行くってことは、その樹が最後に頼れる所だったんだ。少年の小さな世界にを支えていたんだよ」
 自分が何処にいようと帰れる場所。絶対的な存在。少年にとってのそれは、幼い頃から一緒だった林檎の樹。例えどれだけ離れたところで生活していようとも、心の片隅にはその存在があったはずだ。
「……俺は、そんな風には考えられない」
「そう?……そう、かもね。幸村にはそういう考え方は無理かもしれないな」
 案外、当人は気づかないものだし。眉間に皺を寄せながら見つめる彼を見て、内心そう呟くと僕は微笑った。
 彼を少年とするのなら、僕は林檎の樹だ。彼の望みの為なら、見返りなんて無くても、この身を削っても。
「――それでも、僕は倖せだよ」
「え?」
「いや。そう言う風に、帰れる場所として少年に想われていた林檎の樹は、きっと倖せだったんだろうなって」
 僕が幸村に存在意義を見出しているように、きっと林檎の樹も少年に頼られることに自分が生きる意味を見出していたのだろう。だから、どんなにボロボロになっても少年の望みを叶えつづけた。
「…………不二って」
「何?」
「呆れるほど前向き」
「……まぁ、そうでなきゃ、幸村と付き合えませんからね」
 溜息混じりに言う彼に、僕も溜息混じりに返す。一瞬、キョトンとした表情をしたあと、何それ、と呟くと、彼は微笑った。
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