後戻りは、出来ない。したくない。して、やらない――。 「っに、き?」 僕が豹変したいと思っている裕太は、何が起こっているのか理解らないという顔をしていた。その表情に、少しだけ、傷つく。 けれど、そんな掠り傷はもうなれているから。僕は笑みすら浮かべ、掴んだ肩をソファに押し付けると、もう一度裕太にキスをした。舌を絡ませたまま、シャツのボタンを外していく。 「っ。待っ。何を」 「裕太が、悪いんだよ。僕の気持ちを無視して観月(あんな奴)の話ばかりするから」 しかも、自慢げに。楽しそうに。 ガリ、とその唇を噛み切ると、裕太が痛みに顔を歪める。それは僕の口内に広がる血の味をより一層感じさせてくれるものとなった。 「どうしたんだよ。み、づきさんの話ならいつもしてるだろ?なんなんだよ、突然」 「突然?突然なんかじゃないよ。僕はずっと裕太が好きで。ずっと裕太を犯してやりたいと思ってたんだ」 ただ、僕たちは兄弟で。それが一時の過ちじゃ済まされないから。ちょっと躊躇ってただけ。 でも、もういいんだ。戻れなくていい。戻りたくなんかない。裕太への気持ちは本物だから。 ただ少し、歪んではいるけれど。 「抵抗してくれていいよ。その方が、僕も燃えるから」 ふふ、と品のない微笑いを浮かべると、僕はその首筋に噛み付いた。服を着ても見える場所に痕をつけ、舌を滑らせる。 「やっ。やめろよ!」 僕が本気だということにやっと気づいたらしい。いつの間にこんなに力強くなったのか。裕太は全身で僕を拒絶してきた。でも。 「それくらいじゃ、駄目だよ」 裕太の両手を一纏めにして、頭の上に押し付ける。ばたつく足も、体重をしっかりとかけ、体を動かせないように固定する。 「ひぁっ…」 胸を指で強く擦ると、裕太は眼に薄っすらと涙を浮かべた。でも、優しくなんかはしてやらない。寧ろ、もっと泣かせたいくらいだ。 「ねぇ。もっと抵抗していいんだよ?殴ったりはしないからさ。だって僕は、裕太を抱きたいわけじゃなくて、犯したいんだから」 「なっ…」 「ほら、抵抗しなよ。それとも、抵抗したくなるように、もっと乱暴にしてあげようか?」 「やめっ――」 力で捻じ伏せるんだ。裕太の体も、心も。もう後戻り出来ないように。支配者が誰なのか分からせて。僕から離れられないように。 その感情が愛じゃなくても、裕太が僕のものになるのなら、構わない…。
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